あらすじ
主人公は3人の「恋人たち」。
通り魔事件によって妻を失った男、そりが合わない姑と自分に関心を持たない夫と暮らす平凡な主婦、同性愛者で完璧主義のエリート弁護士。
東京の都心部に張り巡らされた高速道路の下。アツシがは健康保険料も支払えないほどに貧しい生活を送る彼には、数年前に愛する妻を通り魔殺人事件で失ったという、つらく重い過去がある。
郊外に住む瞳子は自分に関心をもたない夫と、そりが合わない姑と3人で暮らしている。同じ弁当屋に勤めるパート仲間と共に皇族の追っかけをすることと、小説や漫画を描いたりすることだけが楽しみだ。ある日パート先にやってくる取引先の男とひょんなことから親しくなり、瞳子の平凡な毎日は刺激に満ちたものとなる。
企業を対象にした弁護士事務所に務める四ノ宮は、エリートである自分が他者より優れていることに疑いをもたない完璧主義者。高級マンションで一緒に暮らす同性の恋人への態度も、常に威圧的だ。そんな彼には学生時代から秘かに想いを寄せている男友だちがいるが、ささいな出来事がきっかけで誤解を招いてしまう。
映画『恋人たち』より
おすすめポイント
『恋人たち』というラブロマンスを彷彿とさせるようなタイトルからは想像もできない重いテーマです。3人の主人公の恋の終わりを描いた映画ですが、恋の終わりといってもただただ悲しいものではなく「次に進むためのステップ」のように感じました。
映画にでてくる恋人たちの形は、死別、平凡な生活からの脱却、ただ好きな人と一緒にいたいという願いと様々です。他にも浮気が発覚し大喧嘩になる夫婦、何をするにしても常に一緒にくっついて離れないカップルなどが様々な恋人たちが出てきますが、メインはラブラブでもないケンカしてるでもない、それでいて普遍的な恋人たちなのかもしれません。
不条理が描かれた群像劇の中に、橋口亮輔監督が「人間の感情をちゃんと描きたい。」とコメントされているように、人の感情が丁寧に描かれ、人間らしさを感じさせてくれる映画です。
映画『恋人たち』より
ゲイの登場人物
橋口亮輔監督といえば「渚のシンドバット」や「ハッシュ!」のように同性愛者(主にゲイ)が出てくることで有名ですが、今回も恋人たちのひとり弁護士事務所に務める四ノ宮が登場しています。彼はエリートである自分に酔っていて高圧的、同性のパートナーにもモラハラをし、別れを切り出されます。その別れを切り出される際も「いいよ」とあっさり受け入れるほど今の恋人には執着がないようです。
そして学生時代からの友人、聡とはずっと仲が良かったのに聡の妻の言葉で距離を置かれてしまいます。聡の妻の言葉も「息子がいたずらされてる」という誤解というにはあまりにもひどい嘘。
フランスのコメディ映画『メルシィ!人生』でもゲイだと分かるやいなや「若い学生の男の子に色目使ってる」みたいな思いこむシーンがありましたが、ちょっと世間話をしただけなのにイタズラされてる、息子のことを性的に見ていると思いこまれるのはゲイバイアスあるあるだなと感じました。
そういったゲイのリアリティをさりげなく描かれるのも橋口亮輔監督作品の魅力の一つだと思います。

映画『恋人たち』より
まとめ
本作の主演の篠原篤、成嶋瞳子、池田良の3人は橋口亮輔監督ののワークショップに参加していて、オーディションを経て、本作の主演に選ばれており、出演者の約8割をアマチュアの俳優が占めているそうです。ベテランや映像作品に引っ張りだこの人気俳優とはまた味があり、それが作品の見どころのひとつになっています。また脇を固めるベテラン俳優陣も魅力的です。悲しみと苛立ちを体現したアツシ役の篠原篤の佇まいが見事です。
決してハッピーエンドというわけではないですが結果的に「よし!」と思える前向きな作品だと思いました。
▼映画『恋人たち』予告編▼
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