ヴィクとフロ

 

あらすじ

元囚人のヴィクトリアは60代の女。人生をもう一度まともに戻そうと、保護司ギョームの保護の元、田舎の砂糖小屋に居を構えた。刑務所時代の仲間にして、親密な関係にあったフロレンスと共に。
 
しかし、二人の到来は集落の人々に違和感をもたらし、彼女らに隠遁生活を送らせる。そして、二人が背負う過去が幽霊のようにつきまとい、それが結局、二人の命を悲劇的な危機にさらすことになる。
 
ヴィクとフロ02
映画『ヴィクとフロ 熊に会う』より

熊とはなんのことか

2013年カナダ映画。ベルリン国際映画祭でアルフレッド・バウアー賞を受賞した作品。刑務所を出所した2人の女が、偏見や過去の因縁によって悲惨な結末を迎えるまでを描いたカナダ映画で、女性同士の恋愛を楽しむ作品でもストーリーを楽しむ作品でもなく、映画ならではの暗喩を楽しむ作品だと思います。
 
まずタイトルにもある【熊】とはなんなのか、熊そのものは作中には登場しません。二人に近づく女性マリアのことなのか、復讐のことなのか、ヴィクとフロ自身のことなのか。私は二人が逃げ切れなかった【現実】かなと思います。
 
ヴィクは働いて村の人と交流を持ってという社会生活から逃げ、ひっそりとフロとの隠居生活を望んでいますが、現実はそうはいかない。フロは外交的で、ヴィクとは別に男性とも関係を持つ奔放な性格。フロもフロで自由に生きたいけど、いろいろあってそうもいかない。
 
そんな二人が逃れられない【現実】という熊に追い付かれ追い抜かれた、そんな映画だと思います。
 
ヴィクとフロ01
映画『ヴィクとフロ 熊に会う』より

【暗喩】を楽しめる作品

この映画はかなり「暗喩」が表現されていて、それを知ってるとかなり楽しめる作品だと思います。個人的には「車」。
 
ヴィクとフロの基本的な乗り物は借り物のゴルフカート。しかも操作が難しく蛇行するしコースアウトもするようなゴルフカート。当然スピードも出ない。
 
そんな二人を追い越していく乗り物がバギー、ロードバイク、モーターボートとスピードもあって真っ直ぐ走る様は2人がどんどん現実に追い付かれるような、2人を置いてけぼりにするような、そんな雰囲気があります。
 
そしてボロボロのゴルフカートも元は借り物だから、返さなければならず、2人の乗り物はとうとうなくなってしまった、さらに保護司と一緒に来た鉄道博物館では、大きくて立派であっても動かないし動けない。2人はもう逃げる術を失ったと思われる表現がすごいです。
 
他にもレズビアンでフロしかないヴィクが終身刑の仮釈放でストレート寄りのバイセクシュアルなフロが満期出所というのも面白いですね。
 
いろいろ暗喩があって楽しい作品で、位置づけはサスペンスか、案外ラストシーンを考えるとラブロマンスなのかもしれないし、不条理ドラマかもしれない。いろんな見方ができる作品です!
 
▼映画『ヴィクとフロ 熊に会う』トレーラー▼



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