ソンランの響き


あらすじ

1980年代、サイゴン(現・ホーチミン市)。ユンは借金の取り立てを生業とし、返済が遅れた客には暴力もいとわず、周りから“雷のユン兄貴"と恐れられていた。

ある日、ユンはカイルオンの劇場に借金の取り立てに行く。団長が「支払えない」と言うと、舞台衣装にガソリンをかけ燃やそうとするユン。止めに入る劇団の若きスター、リン・フン。彼は自らの腕時計と金の鎖を差し出すが、ユンは受け取らず無言のまま立ち去る。

翌日の夜、ユンはカイルオンの芝居を見る。演目は「ミー・チャウとチョン・トゥイー」。敵対する国の王子と王女が、婚姻の契を結ぶが、戦に巻き込まれ引き裂かれる悲恋物語だ。主役のチョン・トゥイーを演じるリン・フンの妖しい美貌と歌声に魅せられるユン。

始めはぎこちない二人だったが、テレビゲームに興じるうちに次第に打ち解けるようになる。すると停電になり、仕方なく外に出る。屋台で麺を食べながら流しの老人の歌を聞いたリン・フンは、その歌が自らの人生に重なると言う。するとユンは、父がカイルオンの伴奏者だったと語るのだった。

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映画『ソン・ランの響き』より

感想

『ソン・ランの響き(原題「SongLang」)』は2018年ベトナム映画。1980年代のベトナムということでまだベトナム戦争の爪痕が残っている時代だそうです。

この物語のストーリーはいたってシンプルで、冷徹だが内に秘めた優しさを持つ借金取りと人気演目で主役を張れる若手舞台俳優との心の交流と言ってしまえばそれまでになってしまうくらい、シンプルなストーリー。しかしその分、映像と役者陣の演技力、演出の存在感でとてもゴージャスに感じさせてしまう作品です。 

特に終盤の、作中劇「ミー・チャウとチョン・トゥイー」とリン・フンの溢れんばかりの熱情とユンに起こった出来事が見事にリンクさせていて、それまでのどこかノスタルジックで、ゆったりとしたストーリーがここに来て、感情の洪水のように流れてくる演出は息を飲む演出でした。

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映画『ソン・ランの響き』より

LGBTQ映画か?

本作は複数のLGBT映画祭での受賞もしていて、日本公開のコピーでは「ベトナムの民族楽器〈ソン・ラン〉の響きにのせて描かれる ボーイ・ミーツ・ボーイの物語」されていて、BL作品もしくは同性愛をテーマにした作品かと思われがちですが、私が見た感想はそこまで色濃く同性愛を推してるわけではなく、本当に2人が出会って短い時間に心を通わせた物語といった感じです。

だけども多分中には「友情が愛に変わった」と思う人もいるだろうし、友愛的なブロマンスだと思う人もいるだろう…そんな絶妙な2人の関係性を見事に描き切っていて、観る人の判断に大きく揺さぶられるだろうと思います。

レオン・レ監督自身は、この映画を「同性愛的」なものと単純化する人々がいることを認めつつ、しかしこれは「人間愛」の映画なのだと強調しているそうです。

ソンランの響き01
映画『ソン・ランの響き』より

まとめ

私自身は、本作をLGBTQ映画であり、そうではない作品だと思います。そんな作品はたくさんありますし、LGBT映画映画祭で触れられたことにより、LGBTQの側面が強く浮き出てただけだと思っています。

ただ個人的にはそんなことよりも、大きく感情が揺さぶられる作品であることを強調したい。人と人との間で生まれる関係性は、時に友情、時に恋愛、時に尊敬、時にライバルといった感じであやふやで、無理にカテゴライズするものではないなと思わせてくれました。

あ。あとタイトルにもなってる「ソン・ラン」ってユンが弾いてる弦楽器のことじゃなくて、小さな打楽器のことだったのね…ちょっと勉強になりました。

▼映画『ソン・ランの響き』予告編▼

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