ゴッズ・オウン・カントリー

 

あらすじ

孤独でやり甲斐を感じられない寂れた牧場での日々の労働を、酒と行きずりの不毛なワンナイトラブで紛らわす青年ジョニー。
 
ある日、季節労働者のゲオルゲが羊の出産シーズンに雇われる。
 
初めは衝突する二人だったが、羊に優しく接するゲオルゲに、ジョニーは今まで感じたことのない恋心を抱き、突き動かされていく…。
 
ゴッズ・オウン・カントリー05
映画『ゴッズ・オウン・カントリー』より

感想

『ゴッズ・オウン・カントリー(原題:God's Own Country)』は、フランシス・リーが脚本と監督を務めた2017年のイギリスのラブロマンス映画です。物語は孤独でやりがいのない牧場で働く羊飼いがルーマニア人移民労働者によって人生が変えられるというシンプルなお話。
 
羊飼いのジョニーと季節労働者でルーマニア移民のゲオルグのラブロマンスですが、一番の見どころはゲオルグにあてられて徐々に変わっていくジョニーの表情だと思います。
 
それまで何をするにも無気力で常に二日酔い、行きずりでワンナイトを楽しみ、家業の羊飼いの仕事もおろそかという絵に描いたようなダメ人間。ゲオルグに対してもルーマニア移民であることを馬鹿にしたりと、最初こそぶつかっていましたが、ゲオルグの仕事に対しての前向きさや献身的な姿勢に次第に絆され、どんどん表情も明るくなっていきます。
 
そういった、心の揺れ動きや2人の仲睦まじいやりとりといった恋愛要素も素直に楽しめる作品だと思います。
 
ゴッズ・オウン・カントリー04
映画『ゴッズ・オウン・カントリー』より

同性愛は禁断の恋ではない

同性同士の恋愛を描く作品は数多くあります。例えば『ブロークバック・マウンテン』や女性同士の恋愛なら『キャロル』が浮かびますが、どちらも悲恋で、想い人が同性であるがゆえに苦しむという構図がありますが、本作にはありません。
 
簡単に言うと想い人が同性であることで「禁断の恋」という演出がされてない感じで、もちろん過去にも禁断の恋感の薄い作品はありましたが、多くはコメディ要素が強い作品で、本作のようにラブロマンスでハッピーエンドなこの同性愛の描き方は珍しいものです。
 
かと言って、同性愛に優しい世界という話でもなく、ジョニーとゲオルグがお互いに「ヘンタイ」「ホモ野郎」と言い合ったり、ジョニーの祖母が2人の関係に気づき涙したりという描写がある。しかしジョニーもゲオルグも相手が同性だからという理由で悩んだりする描写がないので、そういった描写も変なノイズにならず、いいスパイスといった感じです。
 
ゴッズ・オウン・カントリー01
映画『ゴッズ・オウン・カントリー』より

ジョニーの成長

この映画はやはり主人公ジョニーの変化が魅力的です。はじめは余裕がなくて誰に対しても当たり散らしていたジョニーがゲオルグと出会い、徐々に彼に心を許し始める様はまさに恋愛映画醍醐味といったところ。
 
というよりもあの仕事量をそれまでひとりでこなしていたのかという驚きもあるのですが、それでもゲオルグと一緒に仕事をし、並んで食事をし、怪我の手当てをしてもらって……窮屈さを感じていたジョニーが、心安らぐ場を見つけたのだと思えるシーンがたくさんあります。それまで食事も仕事もひとりでしていたと思うとジョニーがやさぐれる気持ちも何となくわかってしまいます。
 
しかしそんなジョニーは変化を恐れます。特に仕事方面。変わろうとする、というより変わらないとジョニーの牧場は潰れてしまうと危機感を感じるゲオルグに対して、とにかく変わることを恐れるジョニー。ジョニーからしてみればそれまでなんとかやってこれたんだから、という思いもあるのでしょうが、心のどこかではここまではマズイということも理解してる感じです。
 
そんなジョニーが変化する瞬間が訪れます。それはゲオルグを裏切ってしまい、ゲオルグが出て行ったことで強制的に変化しなければならないといった感じでしたが、心にはゲオルグに帰ってきてもらうためというのがあって心の成長と恋愛要素がうまく絡んでいて、見ていてときめきます。
 
ゴッズ・オウン・カントリー02
映画『ゴッズ・オウン・カントリー』より

まとめ

タイトルのゴッズ・オウン・カントリー(God's Own Country)は『神に恵まれし大地』といった感じでしょうか、正直ただ広く寂れた小さな牧場はとても神に恵まれた大地といった感じではないですが、そこでジョニーとゲオルグの出会い、幸せな生活をしようとしているこの土地を神様が静かに祝福しているのだと思うと神秘的に感じます。
 
父親、祖母、牧場の仕事、しがらみだらけで疎ましく思っていた寂しい土地だけれど、ゲオルグと一緒なら神に与えられた恵まれし大地に変化するなんて思ったよりもロマンチックで素敵なタイトルだなと思いました。
 
映画『ゴッズ・オウン・カントリー』予告編

 
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