ロングタイムコンパニオン


あらすじ

ファイア・アイランドのビーチハウスをひと夏借り切って過ごすデービッド、ショーン、ウィリー、ジョンの4人。

だがそんな彼らを悪夢のどん底に突き落とす、ショッキングな記事が報じられた。

「41人の同性愛者から原因不明のガンが発見された」

ーそう彼らもまたゲイ仲間だったのだ。

あるゲイのグループを、エイズが発見された81年から9年間にわたって、スナップを綴った話題作。仲間が一人また一人と、エイズに冒されて死んでゆく中、互いに結束しあいエイズと闘う姿を描くヒューマン・ドラマ

▼映画『ロングタイム・コンパニオン』トレーラー※日本語字幕なし▼



感想

『ロングタイム・コンパニオン(Longtime Companion)』は、1990年制作のアメリカ映画で1980年代のアメリカを舞台に、ゲイコミュニティにおけるエイズの流行と混乱を描いています。

ゲイコミュニティとHIV/エイズとは切っても切り離せない関係で、HIV/エイズ感染による不当解雇で戦う物語『フィラデルフィア』やエイズ患者たちの活動を描いた『BPM ビート・パー・ミニット』がありますが、まだ「HIV/エイズ」なんて単語がなかった時代のお話です。

物語そのもはフィクションですが、ニュース記事の日付などは合わせているため、これに近いことがアメリカのゲイコミュニティで起こったんだなと思わせてくれます。

今でこそだいぶマシになりましたが、HIV/エイズ=ゲイ男性の病気という認識はまだまだ強く、それに感染しているだけで、同性愛者だと疑われたりする時代もあり、また時代が進むにつれいろんな感染経路が判明すると、今度はゲイ男性の患者は自業自得だからという謎な理由で迫害を受けるケースもあったようです。

この映画では、それ以前のまだエイズというものがどんなものか分からないという未知の段階。だからこそはじめは「ゲイの性交渉をやめるようにする方便さ」などと笑い飛ばすシーンもあれば、「キスでも感染する握手でも感染する」とパートナーに対しても疑心暗鬼になるシーンがあり、まさにエイズによる混乱を感じて恐々しました。

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映画『ロングタイム・コンパニオン』より

エイズの恐怖

事の始まりは1981年7月3日のニューヨークタイムズの記事に【41人のゲイ男性から珍種のガンが見つかる】という見出しが載り、ゲイコミュニティに激震が走ります。私個人としてはエイズで最初は珍種のガンという報道だったんだということに驚き。

しかしこの時点ではゲイコミュニティの仲間たちは他人事で、冗談を言ってのけるくらいの余裕です。それは、そこのコミュニティのゲイたちの大半は特定のパートナーがおり、ドラッグも使用していなかったので、ニュース記事にあるような「不特定多数の人と性行為しており、ドラッグも使用しているゲイ男性」から外れていたからが理由でした。

しかし翌年1982年4月30日ゲイ仲間のジョンに肺炎の症状が現れ、仲間内にも動揺が現れます。実はこの時点でまだ「エイズ」という単語ができあがってないので、病院でのやりとりも「免疫機能のトラブルの?」という感じで、それがまた妙な臨場感を感じました。※その年の秋に「エイズ:後天性免疫不全症候群」と名付けられます。

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映画『ロングタイム・コンパニオン』より

そして仲間内でも死者が出てエイズ患者も次々に発覚して、デイビットはエイズ患者のパートナーに対して献身的に看病をし、ウィリーは仲間のエイズ患者に挨拶のキスをするもすぐにゴシゴシと洗い、パートナーのキスすら拒む。当時は本当に感染経路不明で疑心暗鬼になる人も多かったのだと思います。

俳優のハワードはパートナーがエイズ患者だったことから、恋人のハワードも感染しているのでは?と噂され仕事を降ろされました。それだけでなく2人住むアパートも退去されられそうになるほど、エイズを取り巻く環境は悪化していました。

そしてラストは1989年7月19日、最初の報道からたった8年でゲイコミュニティは様変わりしてしまったことにただただ恐怖を感じてしまいました。

「僕は生き続けて、治療法が見つかるかどうか見届けたい。そしたら、どんな感じかな」「きっと、第二次大戦が終わったみたいでしょうね」この言葉すごく重い。この時代のゲイコミュニティに限らす、ニューヨークやサンフランシスコは彼ら彼女らにとっては戦場のように感じたんだと思うと改めてHIV/エイズの恐ろしさを感じました。

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映画『ロングタイム・コンパニオン』より

まとめ

作中には西城秀樹さんの歌唱でお馴染みの『ヤングマン』が歌われるシーンがありました。もともとはアメリカの音楽グループVillage Peopleの「Y.M.C.A」という曲で、Village Peopleは当時LGBTQなんて言葉がなかった時代に「ゲイ・マーケット」をターゲットに活動をし、LGBTQの理解をもっとアメリカで深めて欲しいという狙いもあったのだとか。

今はHIV/エイズの治療も環境も向上し、エイズ映画としては時代遅れだなんていう人もいますが、歴史的なゲイコミュニティに起きた戦場としての映画は素晴らしいと思います。

そしてタイトルの『ロングタイム・コンパニオン(Longtime Companion)』は作中では新聞のお悔やみ欄に載せる際に、本来ならば夫/恋人とつくが、新聞社が拒否するだろうという理由で『ロングタイムコンパニオン(長年の友人)』と同性の恋人を遠回しに表現した言葉で、実際にそういった形式で新聞に載ったそうです。

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映画『ロングタイム・コンパニオン』より

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