母ふたりで家族


内容紹介

小野春さんは、40過ぎの“ごく普通のおばさん”です。
ただひとつ違うのは、バイセクシャルであるということ。
 
自分のセクシュアリティに気づくのが遅く、それをはっきりと認識した時は、すでに猛烈な“孤育て”の真っただ中。それが、親子ともども風邪をひき、高熱を発して寝込んでいた寒さ厳しい冬のある日、救世主が現れるのです(ウォッカのビンをぶら下げて)。彼女の名前は麻ちゃん。それから、運命の糸に操られるようにふたりは惹かれ合い、やがてお互いを同性パートナーとして人生を歩む決意をします。
 
麻ちゃんと同性カップルとして生きていくのは、常に「ビクビクと」「しかたなく」「迷いに迷いながら」「やむにやまれず」の連続でした。それぞれの連れ子3人を育て始めてぶつかった、娘からの猛烈な反発と自己嫌悪。敬虔なカトリック信者である母親へのカミングアウト。しかし、どんなに壁にぶつかろうとも、それをひとつひとつ乗り越えるたびに、新たな人と繋がり、思わぬ体験をした小野春さんは、いつの間にか国を相手に訴訟(ケンカ)をすることになってしまうのです。
 
バイセクシャルの春さんとパートナー麻ちゃんが、母2人子ども3人の“かぞく”を作り上げるまで。そして自分と同じような子育てをするLGBTの仲間を支援する団体「にじいろかぞく」を立ち上げ、「結婚の自由をすべての人に」裁判に至るまで。
 
その約20年間にわたる、めったにない“かぞく”の顛末を書きつくします。
 

感想

2019年2月14日、バレンタインデーの日に東京、大阪、名古屋、札幌の4カ所で、同年の9月5日には福岡でも、日本初の同性婚についての集団訴訟(「結婚の自由をすべての人に」訴訟)が、国を相手に起こされました。本書の著者、小野春さんはその訴訟の原告のひとりです。
 
内容は小野春さん視点のエッセイで、セクシュアリティの自覚、同性パートナーの麻ちゃんのこと、3人の子どもたちのこと、結婚の訴訟のことを綴っています。
 
同性婚についての集団訴訟に関してはニュースで知っていたので、読んだときに「あぁあの時の人か」と思いながら読ませていただきました。なので、その集団訴訟に至るまでの流れや、それまでのこと、これからのことはとても勉強になることばかりでした。
 
個人的には子どもたちは母親2人をどう受け止めるか、思春期に入った子どもたちはどうするのか、子どもたちのセクシュアリティはなど、子どもたちに関することがとても興味深く感じ、というのも、『All we need is love』という写真集では海外のLGBTQファミリーの姿を、日本のコミックエッセイでも『お母さん二人いてもいいかな!?』などありますが、LGBTQファミリーで子どもがいて、その立場から発信する情報というのはほとんどなく、漠然とLGBTQと家族や子供というものは無縁なのではと突きつけられていると感じていたからです。

母ふたりの子どもたち

小野春の家族は、自分の息子2人とパートナーの麻ちゃんとその娘、つまり子連れ同士のステップファミリーな家族。それもそこに至るまでは一筋縄ではいかず、子どもたちには自分2人の関係をどう説明するか、なかなか継母である春さんと継子の娘ちゃんとのギクシャク、両親の離婚をいまいち理解できないお父さん子だった次男、反抗期を迎える長男などなど、子育ては波乱万丈。
 
性的マイノリティが家族を持つということ、母親父親子どもという世間一般的でマジョリティな家族の在り方と離れた家族の在り方に対して世間一般はどう受け止めるかというのは、参考になる部分が多かったです。
 
個人的には三者三様な長男、次男、娘の子どもたちと春さん麻ちゃんのやり取りは、勉強になることも多く、エピソードも面白く感じました。特に血のつながらない母親に対して、世間一般とは違う自分たちの家族に対して、そして母親のセクシュアリティに対しては子どもたちはどう受け止めるかはなかなか面白いです。
 
性的マイノリティは家族を持てないという、どこにあるそういう風潮にNOと強く言える、そして将来的に家族を持ちたいと思っている性的マイノリティの人たちに勇気を与えてくれる家族だと感じました。
 

セクシュアリティの模索

本書は小野春さん視点で描かれいるため、どうしても小野春さんのアレコレが多いのですが、とても興味深い点がありまして、それは春さん自身が同性愛を禁忌としているクリスチャンであり、ホモフォビックな感情を持っている点です。
 
それ故に自身が【異性愛じゃないかもしれない】と気づくのに時間がかかり、気づいてもなかなか受け入れることもできず、麻ちゃんと娘ちゃんとも暮らし始めても表面的には自身のセクシュアリティを受け入れつつも、どこか嫌悪的な感情を持っているのも確かで……というなかなかセクシュアリティを、というより自分自身を受け入れられない時期があったとのことです。
 
その反面、春さんと麻ちゃんの子どもたち3人は、思春期や反抗期で反発はするものの、自分の家族を否定したり両親にセクシュアリティを否定することはなく、それどころか自分たちが最初から【異性愛者ではないかもしれない】という可能性で自身のセクシュアリティを自然と考えられ、春さんが自分を【絶対異性愛者だ】と思っていた対比が面白かったです。
 
そして、その子どもたちが自分のセクシュアリティについて考えた末「ストレート(異性愛者)だ」と今のところ結論を出したことまで素晴らしいなと感じました。多様性、セクシュアリティを自然と考えられる環境っていいなと。
 

まとめ

このほかにも、職場やご近所へのカミングアウト、学校へのカミングアウト、そして厳しい両親へのカミングアウト。けじめの結婚式、乳がんの患ったことで感じた法的な婚姻関係の必要性、LGBTQファミリーの会などなど、かなり盛りだくさんのエッセイとなっております。
 
私個人が読んでみて一番びっくりしたのは、著者の小野春さんが割と引っ込み思案というか、消極的な考えて、できれば事を荒立てたくない性格だったこと。同性愛に関する集団訴訟に携わったり、LGBTQファミリーの会を作ったりと積極的にLGBTQの平等性を訴える姿勢なのかと思っていたので。
 
でもよく考えたら、本人の積極性とか消極性とか関係なくて、自分が自分であるためにそうせざるを得ない状況なんだと本を読んで改めて感じました。そして小野春さんと麻ちゃんファミリーを応援したく本でした。
 

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