
ミッドナイトスワン/内田英治
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あらすじ
トランスジェンダーの“凪沙”(なぎさ)は故郷の広島を離れ東京、新宿を舞台に生きている。
あるきっかけで親戚から預かった一人の少女と暮らす事になってしまった。母から愛を注がれずに生きてきた少女、一果(いちか)と出会ったことにより孤独の中で生きてきた凪沙の心に今までにない感情が芽生える。
あるきっかけで親戚から預かった一人の少女と暮らす事になってしまった。母から愛を注がれずに生きてきた少女、一果(いちか)と出会ったことにより孤独の中で生きてきた凪沙の心に今までにない感情が芽生える。
一人の少女との出会いにより凪沙に芽生えた自らの“性”の葛藤と、実感した事の無かった“母性”の自覚を描く、奇跡の物語。
▼映画『ミッドナイトスワン』予告編▼
評価
『ミッドナイトスワン』は、2020年の日本映画。トランスジェンダーを題材にした映画で、監督を務めた内田英治さんが企画、脚本、原作小説の執筆も担当し、草彅剛さんが体当たりでトランスジェンダーを演じたことでも話題になりました。
また一果演じる服部樹咲は本作が演技初挑戦で、バレエ経験を生かしたダンスも本作の見どころです。
公開前から著名人らが称賛の声を上げ、国内外でも評価され、2020年間映画満足度ランキング(邦画)では2位にランクインし、ヨーロッパ最大級のアジア映画祭ウディネ・ファーイースト映画祭にて日本から出品される11作品の中の一つに選ばれ、本作品が同映画祭の最高栄誉賞に当たる観客賞(ゴールデン・マルベリー賞)を受賞しています。
映画『ミッドナイトスワン』より
トランスジェンダー描写
高評価を獲得している一方で、作中のトランスジェンダーの描写に対し「ありえない」という声も同時に上がりました。特に否定的な声が上がってる部分として【1.性別適合手術の描写】【2.トランスジェンダーをシスジェンダーである草彅剛さんが演じること】です。
【2】に関しては個人的な意見としては、日本にはまだまだトランスジェンダーの役者が出揃っていない…つまり出遅れている状況なので、知名度や話題性、演技力を考えたら、どうしてもシスジェンダーが演じることについては、まだまだしょうがないと判断しています……それでもトランスジェンダー役はトランスジェンダーにという動きもあるので、今後が楽しみです。
【1】の性別適合手術の描写…特にアフターケアであるダイレーションを怠ってしまった結果、惨事になるという描写があるのですが、現状はアフターケアの怠惰でそこまでの事態になることは考えにくいです。性別適合手術の失敗と考えるのも妥当かなと思いますが、それなら手術をしたタイで手早く再手術が行われるのでそれも考えにくく、やっぱり悲劇的な展開にするための舞台装置になってしまったのは残念ですね。
昨今、トランスジェンダーを題材にした作品は多く、実話を基にした『ガール/girl(2018年ベルギー)』や『リリーのすべて(2015年英米独)』、日本だと生田斗真さんがトランスジェンダー役としても話題になった『彼らが本気で編む時は、(2017年日本)』があげられます。確かにそれらと比べると、トランスジェンダーの描写に当事者としても「ん?」と思うことはありますが、現状そういった側面も確かにあるので、これはこれで良かったかなと思います。
映画『ミッドナイトスワン』より
問題提起
トランスジェンダー描写、特に性別適合手術の描写は現実的ではないなと思う部分がありましたが、それ以外のトランスジェンダーあるある性別違和あるあるも盛りだくさんで、さらにはトランスジェンダーへの差別もしっかり描くことで問題提起もされています。日本ではトランスジェンダーないしLGBTQへの差別は欧米に比べると少ないと言われますが、それは間違いで、ヘイトクライムに発展しないだけで、差別意識は根強く、LGBTQに対しての考えを放棄していることが多いのです。
実際、本作を紹介した記事で草彅剛さん演じるトランスジェンダーを『女装オネエ』と表現したことで問題になり批判が殺到し、政治家でも差別的な発言が目立ちます。
そういった現状がある日本で、綺麗事でまとめずちゃんと差別描写を描き問題提起することはとてもいいことだと思います。
映画『ミッドナイトスワン』より
まとめ
ストーリー面ではもっと凪沙と一果の心を通わせる描写が多くてもいいなぁって思いました。2人とも分厚い壁があるのに、いつの間にか信頼に値する関係性になってて、特に凪沙が性別適合手術の費用まで削って一果の面倒を見るのは、思わず「そこまでして!?」と驚きました。個人的には一果の友人りんが屋上でバレエをするシーンがとても印象的でした。映画『花とアリス』でもそうなんですが、日常的なシーンでバレエを踊るのってそれだけで異世界感にトリップして面白いですね。
正直性別移行の過程においても「ありえなくはないけどちょっとありえないかな」って描写は確かにありますが、エンターテインメントですのでそこまでは気にならないですし、何よりトランスジェンダー“凪沙”を演じる草彅剛さんの好演も素晴らしいです!
映画『ミッドナイトスワン』より
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