ぼくのバラ色の人生


あらすじ

リュドヴィクは、身体は男の子として生まれたが性自認は女の子という子。 物語はリュドヴィクの家族が郊外の街に引っ越してきて、リュドヴィクの両親が近隣の住民を招いたパーティーで、リュドヴィクは自分の心の性に合った衣装、姉ゾイのプリンセスドレスを着て登場し、皆を驚かせる。
 
リュドヴィクはただ自分を無邪気に表現しようとするだけだったが、周囲はそんな彼を性的に倒錯しているおかしい子と見做し、リュドヴィクの両親も非難される。 リュドヴィクの両親も子供のことが理解できず混乱し、父親は本人に男の子としての意識を持つよう矯正しようと試み、母親も最初はありのままでよいとしていたが、続くトラブルと近隣の人々の悪意と差別に、徐々に追い詰められていく。
 
ぼくのバラ色の人生01
映画『ぼくのバラ色の人生』より

感想

『ぼくのバラ色の人生(Ma vie en rose)』は1997年のフランス・ベルギー・イギリスの映画。監督はアラン・ベルリネール、出演は性別違和を抱えるリュドヴィク役にジョルジュ・デュ・フレネ、その母親役にミシェル・ラロックなど。 MtFトランスジェンダーの子とその家族が、周囲の偏見に苦しみながらも懸命に生きてゆく姿を描くドラマとなっています。
 
1990年代後半のフランスではまだまだトランスジェンダーに対して偏見や無理解は強く、いわゆる「法的な性別が変えられる制度」が導入されたのはヨーロッパ(イギリスなど)や日本でも2000年代になってから、そもそも同性婚も作品の舞台である1997年のフランスでは認められていない、そんな時代背景。
 
そんな中、リュドヴィクは男児として生を受けながら自分は将来女になると信じて疑わない子ども。リュドヴィクの行動に「一時的なもの」として楽観的な母となんとか矯正したい父とで、それなりにバランスはとれていたものの、徐々に学校や街の人から奇異の目で見られるようになり、ついには差別や迫害にまで発展、そして家庭の崩壊にまで至ってしまいます。
 
リュドヴィクが受け入れられない様や、家族が差別される様はとても心苦しいものがあり、観ているだけでメンタルが削られるような気分でした。
 
ぼくのバラ色の人生02
映画『ぼくのバラ色の人生』より

崩壊していく家庭

作中で特に公言はしていませんが、リュドヴィクは身体的には男児ですが、行動や言動は女児そのもので、ドレスやメイク、お人形遊びを好み、成長すると女になると言い切っていることから、性別違和が強く実生活にも不都合が生じている性同一性障害なのかなって思います(医師ではないので断言はできませんが)。
 
そんなリュドヴィクに周囲は困惑します。まず母親はリュドヴィクを個性だと思って受け入れている、父親は上司や会社関係の手前快く思っていない、2人の兄はからかうもののそこまで気にしている様子はない、姉は良き理解者、祖母は受け入れつつも「一時的なもの」として認識。
 
そして家族だけでなく、学校の人、父親の会社の人(家のお向かいが父親の上司)、クラスメイトと繋がりがあるため、その困惑の余波は徐々に広がっていき、家族の崩壊へと繋がっていきます。特にリュドヴィクを個性として受け入れていた母親がどんどん悪い方向に行ってしまい、リュドヴィクを否定し「全部お前のせいだ」と責める様子はとても心苦しかったです。
 
ぼくのバラ色の人生03
映画『ぼくのバラ色の人生』より

リュドヴィクの性別違和

父親が男らしくさせるためにスポーツをやらせたり、母親が自棄になりリュドヴィクの髪を刈ったりと、性別違和を抱えている子にとってはNG行動の連発。祖母の「一週間スカートをはかせてみなさい、飽きるわよ」というアドバイスを受け、リュドヴィクにスカートを履かせてご近所のパーティーに行った際も「これで治るから」としきりに言ってしまうのもダメで、まるで「うちの子は変人です」って言ってるようなもの。
 
性別違和を抱えている子は決して「家族や両親を困らせよう」なんて考えておらず、自分のせいで家庭が崩壊していくは辛く、どんどん悪い方向に行ってしまう。なのでリュドヴィクも「男の子の服を着る」と発言したり、親の目を気にしつつ車のおもちゃ(本当はお人形で遊びたい)で遊んだり、どんどん殻に閉じこもってしまいます。
 
カウンセリングを受けさせるも(当時がどれだけ理解が進んでいたかは謎ですが)、一向に改善しないことにやきもきする両親。それもそのはずで、性別違和の強い性同一性障害の場合、自認する性別に身体を合わせるのですが、リュドヴィクの両親は「男らしくなること」「男だと自認すること」を望んでいるので、どうしても食い違いが発生してしまいます。またカウンセリングはかなり時間を消費するため(リュドヴィクが治療に積極的でなかったこともあるが)、早く男らしくなってほしい両親にとっては煩わしかったのでしょう。
 
映画のその後はどうなるかは分かりませんが、リュドヴィクの父親が「自分の好きにしていい」という言葉を信じて、良くなることを祈っています。

ぼくのバラ色の人生04
映画『ぼくのバラ色の人生』より

まとめ

実は前々からこの作品は知っていたのですが「トランス女性は観るとメンタルやられるよ」と言われていてなかなか手が伸びなかったんです。確かに否定される、髪を刈られる、自分の性別違和のせいで家族がバラバラになっていく、周囲からの偏見と差別……辛いものがありました。
 
当時のフランスはトランスジェンダーどころか同性愛にも理解が進んでおらず、作中でも「男同士では結婚できないの!」と強く言われるシーンがあります……まぁそれに対して「知ってるよ!だからぼくが女の子になる!」と言ってのけるリュドヴィクも強いなと思いますが……。
 
個人的にはリュドヴィクの煌びやかな妄想が痛々しくもあり、救いだったのかなって思います。
 
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