MW


あらすじ

梨園に生まれたエリート銀行マン・結城美知夫には、狂気の連続凶悪犯罪者としての顔があった。犯行を次々に重ねては、その後に教会を訪れ、旧知の神父・賀来巌のもとで懺悔を行う結城。しかし、2人は同性愛者として、肉体関係を結んでいた。
 
かつて結城は、少年時代に南国の沖ノ真船島を訪れた際に、同島に駐留する某外国軍の秘密化学兵器「MW(ムウ)」が漏れた。島民が相次いで変死する地獄絵を目の当たりにしたトラウマと、自らも毒ガスを吸ったショックから、結城は心身を蝕まれる。
 
賀来とはそのときに出会い、2人の奇妙な関係はその後も続いていたのだった。一方、沖ノ真船島の犠牲者たちは、外国軍および彼らと結託した政治家らの手によって跡形もなく処分され、島の秘密を知っているのは結城と賀来だけとなってしまう。
 
自分の心身の健康を奪われた結城は、数々の誘拐事件と殺人事件を繰り返した末にMWを奪い、全世界を自分の最期の道連れにしようとたくらむに至る。それを阻止し、結城を救済すべく動き回る賀来。そんな彼の苦悩と救済と改悛を拒否しながら、結城は加速度的に犯罪を重ねていく。
  
MW01
漫画『MW(ムウ)/手塚治虫』より

感想

『MW(ムウ)』とは手塚治虫の漫画作品。1976年9月~1978年に連載され、2009年には同作品を原作とした映画が公開されました。
 
本作は手塚治虫氏の数多ある作品の中でも同性愛や猟奇殺人をテーマとした作品でかなり異彩です。主人公は結城美知夫、表の顔は関都銀行新宿支店のエリート銀行員で裏の顔は世間を騒がす誘拐殺人犯。そしてそんな結城を咎めつつも、勇気とは肉体関係にあり、犯罪を協力させられている神父の賀来巌。この2人を中心に秘密化学兵器「MW」を巡って猟奇的なストーリーが展開されます。
 
重い展開が続くのですが、さすがの漫画力と言いますか、物語に引き込んで離さない力はさすがとしか言えません。
 
MW02
漫画『MW(ムウ)/手塚治虫』より

同性愛描写と結城と賀来の関係

『MW』が異彩の手塚治虫作品と言われる所以のひとつが作中の【同性愛描写】。1970年代にしてはかなり珍しく積極的に同性愛描写を取り入れています。それが決して同性愛者に優しい世界というわけでなく、作中でも結城と賀来のキスを見た澄子が「げっ」と嫌悪するシーンがあったり、神父の同性愛行動をスキャンダルとして取り扱うような動きがあったりと、当時の風向きを示すシーンはいくつかあります。
 
また変装の名人である結城は度々女装をし(もともと歌舞伎役者の女形の家系)、巧みに男と女とを行ったり来たりしたり、男も女も誘惑し関係を持つことで人心掌握したりと、様々な場面で「男と女」というものを感じるのも当時としては異質だったのではないでしょうか。ちなみにタイトル『MW』も「Man(男)とWoman(女)」ではないか、という説もあります。
 
そして肉体関係にあった結城と賀来ですが、この2人は恋愛関係にあったかどうかは作中では明言されていません。それどころか、結城は賀来にかなりひどいことをします。彼の尊厳を踏みにじり、社会的にも陥れようとします。賀来も結城の行動は殺しててでも止めなければならない因縁の相手。しかし、結城は賀来をそばに置いておきたいし、賀来も勇気を殺せずにいる……共依存のような執着のようなものをお互いに持っていて、それは愛情と呼べるものではないかもしれませんが、この2人の関係も作品の大きな見所のひとつです。
 
MW03
漫画『MW(ムウ)/手塚治虫』より

実写映画について

『MW』は2009年に映画化もされ、結城役を玉木宏、賀来役を山田孝之さん演じられました。

MW(映画)
こちらの作品は、大きなストーリーは踏襲しているものの、設定や細かなストーリー、キャラクターは大きく改変されており、主人公の結城と賀来すら名前が変更になっています。故に原作に合った戦争批判や二元論批判などは鳴りを潜め、クライムサスペンスと化してます。
 
また原作のキーになる同性愛関係もまるまるカット。なので、結城と賀来の関係性はかなり薄いものとなっていて、一応制作サイドは肉体関係があると匂わせ程度に取り入れているものの、ほぼほぼ皆無。原作を知っている私でも「匂わせあったか?」思うほど。
 
当時、役者も役者の事務所も同性愛描写は問題ないとしたものの、スポンサーがNGを出してしまったためとのことで、当時はちょっとした話題になったようです。
 
▼MW-ムウ₋予告編▼


まとめ

この作品は「男と女」「正義と悪」「始まりと終わり」といった二元論の否定がテーマでそれを結城と賀来の関係を通して描いているのかなと思います。

同性愛描写を含む結城と賀来の関係性や引き込まれるストーリーも見どころですし、本当に何が正義で何が悪か分からなくなる作品でした。
  
そしてラスト。物語の終焉はさまざまな人を巻き込んで大事になっていきますが……始まりと終わりすら曖昧です。これをどう受け取るかは読者次第だと思うのですが、個人的にはこういった後味悪くも感じられるラストもありだなと思います。 

【関連記事】
【アロマンティックの苦悩】わたしのアスチルベ【漫画】
【心もお腹も満たす】きのう何食べた?【漫画/映画/ドラマ】
【男の娘×芸能界】少女少年シリーズ【漫画】
【男女入れ替わり長期戦】青春ビターチェンジ【漫画】
【恋の罠】トラップヒロイン【漫画】