僕が夫に出会うまで


あらすじ

【いつか「運命の人」と出会うまで……】
 
アニメの『美少女戦士セーラームーン』が大好きだった。仕草が女っぽいからと「オカマ」と呼ばれた。両親も学校の先生が気にして騒ぐことも心苦しく、惨めだった。小学2年のある日の「帰りの会」。担任の先生は、少年を前に立たせて、クラスのみんなに問いかけた。
「七崎くんって、『オカマ』かい?」――。
 
幼い頃から「普通の男の子じゃない」と言われ、人知れず苦しみ続けた良輔。
いじめや中学での初めての恋、高校で好きになった彼の恋人への抑えきれない嫉妬、そして友人、親へのカミングアウト――。
  
明るく前のめりに光を求め、巡り会えたパートナーと幸せを摑むまでを描く、愛と青春の自伝エッセイ。

僕が夫に出会うまで01
エッセイ『僕が夫に出会うまで』より

感想

『僕が夫に出会うまで』は著 七崎良輔さんによる自伝エッセイです。ゲイである良輔さんが、いろんなものを経て、後の夫となる亮介さんと出会い、結婚するに至るまでのお話をエッセイにまとめたもので、幼少期のいじめや初恋、ゲイのコミュニティでの出来事など津々浦々に語られています。
 
前半は自身がゲイであると認めたくない幼少期~学生時代の描写が続きます。子供のころから男性が恋愛対象であることを必死に隠すも隠せなかったり、自分の恋心が上手くいかなくて当たってしまたり(そもそも自分の性的指向をうまく咀嚼できていない)と言う、もやもや感。そして自分がゲイであると「認める」までの過程を丁寧に描いていて、自分を認められてないという点で共感できる人も多いのではないでしょうか。  
 
比較的分かりやすい言葉で綴られたこのエッセイは、とっつきやすい印象を与え、とても読みやすいです。またカミングアウトについても細かく描かれ、友人に、母、そして好きだった人、それぞれのカミングアウトがあり、それがカミングアウトって本当多彩なんだろうなと改めて感じさせてくれました。
 
僕が夫に出会うまで02
コミカライズ版『僕が夫に出会うまで』より

身近に潜んでいるゲイに対する嫌悪

幼少期から「女っぽい」と言う理由で良輔さんは「おかま」だとからかわれ、「ちゃんと男の子か」という議題が上がる。そして中学に上がると拍車がかかりイジメに発展。また一度は結婚パーティーまで開いた恋人の拓馬は友達にゲイバレしたことで無視されるようになり、それがきっかけで心因性の苦悩を感じます。
 
本作では恋バナや結婚など本来なら当たり前にできることが当たり前にできないゲイの苦悩と同時にいかに同性愛嫌悪(ゲイフォビック)が身近に潜んでるかも綴られています。個人的には葛西警察署の一件は衝撃的で、ゲイだからと言う理由で盗まれた財布を「盗難届」ではなく「紛失届」にするように圧をかけられるなんてことがあるのかと驚きました。
 
それは悪意があったり、なかったり、ゲイの仲間内にだってあったりすること、細かく書くことでこういった差別的なことは身近に潜んでいるんだと教えてくれるんだと感じました。
 
僕が夫に出会うまで04
コミカライズ版『僕が夫に出会うまで』より

コミカライズ版『僕が夫に出会うまで』

僕が夫に出会うまで(コミック)
【あらすじ】
「七崎が女だったら、俺たち付き合ってたよな」
「男のお前とは付き合えない」と、はっきりと告げられた瞬間だった――。
 
学生時代の初恋、初めての出会い系サイト、好きな人とのドキドキの共同生活。
時につまづきながらも「運命の人」を求めて奔走する青年の、ほろ苦くも前向きなラブストーリー。
 
僕が夫に出会うまで03
コミカライズ版『僕が夫に出会うまで』より
 
こちらはBL作家のつきづきよしさんを作画に迎えたコミカライズ版『僕が夫に出会うまで』です。内容はほぼほぼエッセイの通りですが、エピソードはかなり抜粋しており、エッセイの身近に潜んでいるフォビックな部分よりも、初恋や後の夫となる亮介さんとのエピソードなど恋愛要素にスポットを当てたものとなっています。
 
つきづきよしさんの絵柄も相まって、辛いときはより辛く、幸せな時は幸せだと伝わるコミカライズとなっていて、エッセイとはまた違った面白さがあります。
 

まとめ

『僕が夫に出会うまで』というタイトル同様、良輔さんが感じた葛藤や激情、愛情などがとても素直な言葉で綴られています。なので読みやすく、心を揺さぶられるようなエッセイです。内容自体はヘビーな部分もありますが、重くなり過ぎないような言葉運びで、物語がスッと入ってきます。
 
良輔さんと亮介さんのエピソードも素敵なのですが、個人的にはコミカライズ版には未収録ですが高校時代からの好きだった人で、一時は一緒にも住んでいたハセさんにカミングアウトしたときのエピソードが好きです。もう気持ちがないとはいえ、好きだった人に「ゲイです、好きでした」とカミングアウトするってなかなかないことなので、ハセさんのキャラクターも相まってすごく貴重なエピソードだと感じました。
 
他にも読み応えのあるエピソードがたっぷりなので、コミカライズ版も合わせて是非!
 
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