トムボーイ


あらすじ

夏休み、家族と共に新しい街に引っ越してきた10歳の少女ロール。引っ越し先で「ミカエル」と名乗り、新たに知り合ったリザたちに自分を男の子だと思い込ませることに成功する。
やがてリザとは2人きりでも遊ぶようになり、ミカエルとしての自分に好意を抱かれてることに葛藤しつつも、お互いに距離を縮めていく。
しかし、もうすぐ新学期。夏の終わりはすぐそこまで近づいているのだった…。
 
▼映画『トムボーイ』予告編▼


感想

『トムボーイ(Tomboy)』は、2011年に製作されたフランスの映画。監督は『水の中のつぼみ』や『燃ゆる女の肖像』で女性同士の恋愛を描くことに定評のあるのセリーヌ・シアマ。
  
物語は男の子のふりをした女の子が、引っ越し先で友人を作り、交流するひと夏の出来事を濃縮した映画です。そこには女の子だとバレてはいけないというハラハラ感や仲良くなったリザから寄せられる好意のドキドキ感が相まって、テーマとは裏腹にどこかさわやかな映画となっています。
  
女の子が男の子のふりをするという題材故に作中ではジェンダーバイアスな仕掛けがいくつもあり、そこに着目しても面白いかもしれません。
 
トムボーイ02
映画『トムボーイ』より

ロール/ミカエルの性自認は?

ロール/ミカエルは性別違和を抱えており、性同一性障害であるとする人もいます。ここは解釈の分かれるところですが、私自身の考えはミカエルは性同一性障害でもなく、性別違和を抱えている感じではないと思っています。実際ロール/ミカエルから性別違和を訴える描写もなく、女の子であることを苦悩しているという感じではないのでそう判断しました。
 
ではロール/ミカエルが何故男の子のふりをしていたのか?それは恐らく、ロール/ミカエルが自分の好きなことをしようとすると「女の子なのに!」と言われてきた過去があるからではないかと推測します。そう言われるのならば「男の子のふり」をするほうがロール/ミカエルの方が、自分の好きなことをできるし、都合がいいのでしょうね。つまりは女の子だけど男の子っぽいことが好きな女の子といった感じ。
 
実際タイトルの『トムボーイ』は「お転婆」や「ボーイッシュ」といった意味で女の子に使う言葉を用いているので、あくまでロール/ミカエルは男の子っぽい女の子だと自認している感じかなと思います。ただ2021年日本で公開するための宣伝するにあたっては「少女」という言葉が指摘され削除された経緯があったりと、本当解釈は分かれると思います。
 
トムボーイ04
映画『トムボーイ』より

ジェンダーの仕掛け

作中にはジェンダーに対する仕掛けがいくつかあります。例えば青と赤。日本でもたびたびトイレや更衣室のマークなどで性別を分ける際に用いられ、青は男、赤は女と配色されます。海外でも似たようなことはあって、例えばジェンダーリーブルパーティーなどではお腹の子の性別を大々的に発表するパーティーがあります。その際もベイビーブルーは男の子、ベイビーピンクは女の子です。
 
『トムボーイ』でも青と赤は積極的に使われていて、ロール/ミカエルは、周囲に男の子として振る舞ってるときは「赤」を、家族など周囲に女の子として見られているときは「青」を、積極的に服装や背景に取り入れています。一見逆では?と思われるかもしれませんが、少女ロールの時であっても男の子の部分はあるし、少年ミカエルの時でもあっても女の子の部分はある。本来は切っても切り離せないもので、ロール/ミカエルも分けることを望んでいないということなのかなと思いました。そして終盤、ロール/ミカエルには下の子が生まれるのですが、そのベビー服はブルーでもピンクでもないのが特徴的でした。
  
ちなみに初対面のリザに思わず男の子のふりをするのですが、フランス語では男性形と女性形の言葉があり、リザは初対面のロールに対して男性形で話しかけてるので、最初からリザはロールを男の子だと勘違いしています。そういった男性形女性形のあるフランス語に対しての皮肉かななんて思ったりしました。
 
トムボーイ01
映画『トムボーイ』より

まとめ

私個人はロールはミカエルと名乗ることで「心置きなく男の子らしく振る舞える」と考えたのだと思います。つまりメッセージ性を汲み取るなら「女の子が男の子っぽいことしちゃダメなのか?」という既存概念に凝り固まったジェンダーバイアスに対しての疑問を投げかけてるのだと感じました。
 
終盤、ロール/ミカエルは男の子のふりをしていたことを咎められます。確かに周囲に嘘をついたことは確かで、いけないことなのかもしれませんが、ロール/ミカエルにとってはそれがその時にできる最善の方法で「自分らしく生きる手段」だったのだと思うと咎められるのは辛いものがあります。
  
そしてラスト、個人的には男の子だと偽っていたロールにとってはさらに最善の方法だったと思います。
  
トムボーイ03
映画『トムボーイ』より

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