ハイヒールの男


あらすじ

並はずれた強さと暴力性で、警察内部ばかりか犯罪組織からも一目置かれる存在の刑事ジウク。容姿にも恵まれ、誰もが羨むほど完璧な男のジウクだったが、実は心の内に女になりたいという欲望を秘めていた。長年にわたってそのことを悩み続けてきたジウクは、ある出来事をきっかけに本当の自分と向きあうことを決意する。しかし、そんな矢先、ある事件に巻き込まれてしまい……。
 
▼映画『ハイヒールの男』予告編▼


感想

『ハイヒールの男(하이힐)』は、2014年公開の韓国のアクション映画です。作中でもさんざん「男の中の男」と言われているジウクが実は内に女性性を秘めていて、それを隠すために身体を鍛え、男らしく振る舞い、武闘派になったが、あることをきっかけに性別適合手術をしようと決心するものの、暴力団関係者など警察故に敵も多く、なかなかスムーズにいかず……といったお話。
 
韓国のLGBTQ事情はそこまで詳しくはないのですが、当事者からするとまぁまぁツッコミ所満載の性別移行描写。しかし主題はそこではなく、刑事としての男性性と女性になりたいという意思のせめぎあいに、周りも巻き込まれて…な部分だと思うので、性別移行描写に関しては多少ファンタジーでもいいのかなと思ったり。
 
個人的にちょっと楽しかったのは、ド派手なアクションが多めだったこと。割と派手なバトルシーン好きなのですが、普段このブログではLGBTQやそれに準ずる映画を紹介することが多いので、どうしてもアクションシーンなんて皆無な作品が多くて……でもこの作品は『アクション✕LGBTQ』というのをしっかり取り入れていて、今後そう言った作品も増えて言ったら嬉しいなと思う限りです。
 
ハイヒールの男04
映画『ハイヒールの男』より

バトルアクション✕性別移行

前述したように、この映画は主人公ジウクのアクションバトルが見どころのひとつです。まず冒頭からヤクザ組織の宴会に一人で殴りこみ、多人数を相手に素手で大暴れする主人公ジウクの圧倒的な強さは見張ります。他のも雨の日の傘をさしたままのバトルなど、あまりの強さは作中で「サイボーグ」「男の中の男」と敵味方問わず言われるほどです。
 
しかしのその圧倒的な強さの裏側には、自分の中にある女性の部分を消したい、隠したいという願いから来ているもので、ジウクの高い戦闘能力や凶暴さの描写の後に、実は女性になりたいと幼い頃から思っていたと明らかなになることで、彼の強さと弱さ、男性性と女性性がしっかり描かれているのも特徴です。
 
男性としての暴力性を封印して女性になること決意したジウクだったので、映画後半はバトルアクションはないのかなと思っていたのですが、最初から最後までアクションシーン満載でした!ジウクを演じたチャ・スンウォンの演技力も相まって物語冒頭とラストのバトルの差は見ものです!
 
ハイヒールの男02
映画『ハイヒールの男』より

性別移行描写はファンタジー?

男の中の男と作中で言われるジウクですが、幼い頃から女性になりたいという願望に沿って性別移行をします。最終的には性別適合手術をしにアメリカに旅立とうとするまでになるのですが、当事者としてはまぁまぁツッコミどころ満載の性別移行描写。
 
正直、韓国のLGBTQ事情はほぼ知らないので、トランスジェンダーの背景がどんなもんなのかは測りかねる部分はあるのですが、割とおかしな部分がある。例えばホルモン治療の描写では注射痕残るくらいホルモン治療をしているのに、ジウクの見た目は男性そのもの。これに関しては作中で普段から警察として身体を鍛えているために変化でないと言われていましたが、いくらなんでも……という感想。
 
他にも性別適合手術までするのに、ホルモン治療以外の性別移行…例えば脱毛や実生活経験はしてない感じでした。していても女装バーで女装するくらい…かな?ホルモン治療以外で病院に通院している病院もなさそうなので、性同一性障害の診断を受けてるかどうかも怪しい…(一応公式には「性同一性障害」の記述はある)。
 
他にも「昔から女性になりたい願望があった」とは言ったものの、過去の描写は男の子との恋愛模様で性別違和とかそういったのは化粧くらいで、観ていて「あ…同性愛と性同一性障害をごっちゃにしてる?」なんて思ってしまいました。性別適合手術を受けるのにもお金がかかる…みたいば描写もあるのですが、警察として働いているのなら、そこまでの金銭面で苦労することも少ないはずなのになぁと思ったり。
  
基本的にはトランス女性は苦労する、不幸になるみたいな描写が多く「それでも女性になりたいの?」という問いかけがあり、ジウクがそれでもなりたいという決心の固さを思わせることがあるものの、全体的に韓国のLGBTQへの意識の低さからくることもあるのかと思います。
 
しかし、どこまでリアリティを追及するかが問題で、あくまで主軸は男性性と女性性のせめぎあうジウクとそれに伴うバトルアクションだと思っているので、性別移行事情に関してはとことんファンタジーで問題ないかなと個人的には思います。
 
ハイヒールの男03
映画『ハイヒールの男』より

まとめ

かなり奇抜な設定であるものの、主軸がぶれることなく、しっかりまとまっている作品だと思います。ラストはかなり解釈の分かれるところですが、ジウクがいいならそれでいいのかなって思えるラストですね。
 
また性同一性障害に伴う性別移行やバイオレンスアクションなどシリアスなストーリーですが、ところどころコメディな部分もあって面白いので、重たくなり過ぎず楽しめます。そして今回難しい役どころを演じ切ったチャ・スンウォンの刑事としての雄々しさの中にある柔らかい女性性の演技にも注目してほしい作品です。
 
ハイヒールの男01
映画『ハイヒールの男』より

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