黒い眼のオペラ


あらすじ

怪しげな賭けに手を出したシャオカンは、瀕死の重傷を負い、夜の街を彷徨っている。いよいよ行き倒れかというその時、大きなマットレスを運んでいる労働者たちに拾われ、その中の一人ラワンの手厚い看護を受けることになる。傷ついたシャオカンの体を手当てするうちに、ラワンは穏やかで満ち足りた気持ちになっていくのだった。
  
一方、小さな食堂で働いているシャンチーもまた、女主人の寝たきりの息子を看病している。屋根裏部屋に住み込み、朝から晩まで過酷な労働の日々。そんなシャンチーは、ある日偶然シャオカンと出会い、花に吸い寄せられる蝶のように惹かれていく。
  
少しずつ傷が癒えていく中で、シャオカンは自分がラワンとシャンチーとの間を彷徨っていることに気づいていく。まるで野良猫のように注意を引くために彼らを挑発してみせたかと思うと、蝶のように彼らのもとから自由に飛び立っていく。そしてシャンチーの女主人もまた、寝たきりの息子にどこか面影の似たシャオカンに惹きつけられていくのだった。
  
やがて深い霧がこの街を覆う。その濃密な空気の中で、彼らは安らぎの場所を探すことができるのだろうか。

▼I DON'T WANT TO SLEEP ALONE Trailer(映画『黒い眼のオペラ』トレーラー)▼


感想

【登場人物紹介&キャスト】
シャオカン
(李康生(リー・カンション))
怪しげな賭けに手を出し、ボロボロになっていたところをラワンに甲斐甲斐しく世話をされ、それ以降寝食を共にする。言葉を発さず、基本的に受け身で行動する。

ラワン(ノーマ・アトン)
ボロボロのシャオカンを恋心から甲斐甲斐しく世話をする。いい感じのシャオカンとシャンチーをあまり快く思っていない。

シャンチー(チェン・シャンチー)
小さな食堂で働いている女性。そこの女主人の寝たきりの息子の介護をしている。朝から晩まで働く過酷な労働環境の中、自分が介護している青年と瓜二つなシャオカンに惹かれるようになる。

寝たきりの青年(李康生(リー・カンション))
シャンチーが介護している青年。シャオカンと瓜二つ(役者はシャオカンと同じ俳優)。
 
黒い眼のオペラ04
映画『黒い眼のオペラ』より

感想

『 黒い眼のオペラ ( 原題:黒眼圏、英:I Don't Want to Sleep Alone)』は、2006年に製作された台湾・マレーシア・フランス・オーストリアの映画。監督は蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)。
  
マレーシアの舞台に底辺層の人々が必死に生きて愛を模索するようなお話。セリフはほぼなし、会話もほぼなし、BGMもほぼなし、キャラクターのアップもほぼなく、引きの映像がすごく多い。長回しシーンも多くあって、正直「ここのシーンいる?」なんて思うところもあるけれど、それが後に繋がっていたり、その独特な空気を感じられたりと、すごく雰囲気が独特で不思議な映画でした。
  
物語はシャオカンを巡る三角関係。ラワンは行き倒れかけていたシャオカンを恋心から甲斐甲斐しく世話をする、シャンチーも偶然に出会ったシャオカンに惹かれていく。シャオカンはどちらを選ぶのか…といった恋物語。マレーシアの空気感と映画から感じる空気が絶妙にマッチしていて、視聴後はとてもふわふわとした感覚になりました。
 
黒い眼のオペラ01
映画『黒い眼のオペラ』より

不思議な三角関係の行方

前述したとおり、この作品は全編にわたって、セリフがほぼない、会話もほぼない、BGMもほぼない……という作品で、あるのは街中のガヤやテレビから聞こえるアナウンサーの声。主人公のシャオカンは全くしゃべらないし、ラワンに至っては作中ではメインキャラクターであるにも関わらず名前で呼ばれる頃がないため、観てる方はつい「誰だっけ…介護してる人か…」ってなってしまい、はじめのうちは困惑しました。
 
しかし見続けていると、誰が誰に矢印を向けているかと言うのが痛いほど解かり、シャオカンはそんな中主体性のない周りに合わせ、ちょっと悪い言い方をすれば、自分と言うものがない感じ。そんなシャオカンに振り回されるラワンとシャンチーは辛いものがありますよね。
 
物語途中までは、シャオカンはどちらを選ぶんだろうか…男性だけど恩義のあるラワンか、女性で積極的なシャンチーか……正直途中までは「あー…こっちを選ぶのね…」と思って観てたいのですが、ラスト数分で物語の局面ががらりと変わって……決して作品の雰囲気が変わったとか、大どんでん返しがあったとかじゃないのだけれど、思わず「そう来る?」と思ってしまったラストで。しかもどこか納得のいくラストでした。
 
黒い眼のオペラ03
映画『黒い眼のオペラ』より

まとめ

『黒い眼のオペラ』は本当に独特な雰囲気の作品でした。三角関係というありがちなテーマながらも、マレーシアの底辺層の人々という独特の空気感からくる異質さや作品全体の構成も相まって、全く新しいテーマにも感じました。
 
この恋愛模様を「童話の人魚姫モチーフ」という話や、寝たきりの少年(シャオカン役の役者さんが二役やっている)の夢の中説など、いろいろな考察ポイントもあって面白い作品でした!

黒い眼のオペラ02
映画『黒い眼のオペラ』より

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