ビューティフル ボーイ
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あらすじ
タイの農村の貧しい家庭に育ったパリンヤー少年。トゥムの愛称で呼ばれる彼は、自分は本当は女の子だと信じていた。いじめられっ子だったトゥムだが、ひょんなことからお祭りのムエタイ大会に出場したところ、思いがけず勝ってしまい、賞金を手にする。これがきっかけとなり、彼は家族を助けるためにムエタイ選手になることを決意する。厳しい練習に耐え、王者への道を駆け上がるトゥム。その一方で、次第に女であることを抑えきれなくなっていく彼は、ある日、化粧をしてリングに上がるのだった...。
▼Beautiful Boxer (2003) - Movie Trailer※日本語字幕なし▼
感想
『ビューティフル・ボーイ(原題: บิวตี้ฟูล บ๊อกเซอร์、英語: Beautiful Boxer)』は、2003年のタイの伝記映画。実在のトランスジェンダーのムエタイ選手であるパリンヤー・ジャルーンポンの半生を描いている。トゥム役の主演のアッサニー・スワンは元プロのムエタイ・チャンピオン選手です。完全に伝記というわけではなく、映像化にあたってドラマチックに誇張されている部分もあるそうですが、トランスジェンダーのムエタイ選手の半生を描いているという点で、すごくジェンダーやアイデンティティ、ジェンダーロール、トランスフォビック(トランスジェンダー嫌悪)などが、しっかり描かれていて見応えのある作品です。
タイと言えば今でこそトランスジェンダー大国なんて言われたりしますが、当時はそこまでではなく、特に都会と田舎ではLGBTQの受け入れに対して大分差があったようです。
物語は幼い頃から自身の性別に違和感を感じているトゥムが、家計のためにと始めた格闘技を通じてアイデンティティを確立するお話で、そこに至るまでの苦悩や家庭を描いており、視聴者にも今トゥムがどういう感情かというのが分かりやすくなっていると思います。
トランスジェンダーのムエタイ選手“パリンヤー・ジャルーンポン”
本作の主人公トゥムは実際に活躍したムエタイ選手パリンヤー・ジャルーンポンをモデルにパリンヤーの半生を描いています。日本でも1990年代後半「オカマのキックボクサー」として有名になり、いくつか日本人の格闘技者とも対戦をしていて、そのうち1998年11月、女子プロレスラー井上京子と異種格闘技戦は本作でも描かれています。
メイクをしてリングにあがり、独特な踊り(祈り?)、試合後には対戦相手にキスなど、試合のパフォーマンスにも注目されていて、作中では本人にとってはすべて意味のあるものだったけれど、周囲の人はそれを「オカマのふり」や「単なるパフォーマンス」としてしか捉えていない描写もありました。
性別適合手術をして後に引退。その後はムエタイ指導者や女優・タレントなどでも活躍し、「女性キックボクサー」としてリンクにも立ったこともあるそうです。
トランスジェンダーで元ムエタイ選手のパリンヤー・ジャルーンポンさん
まだまだLGBTQに無理解の強い時代のタイ
今現在タイではトランスジェンダー大国なんて言われたりするほど、トランスジェンダーをはじめLGBTQに寛容な国と言われいますが、それはここ最近のことで、確かにダイバーシティには寛容な面も多くみられますが、田舎と都会では寛容に差異があったり、都会であっても嘲笑の対象だったりする部分もあるようです。作中でも、トゥムに対してかなりひどい差別があり、ムエタイ仲間からは避けられ、ヤジを飛ばされ、煽られるという場面がいくつもあり、日本での試合の際には「オカマはパフォーマンス」とアイデンティティを否定されたり、タイの人からも「母国の恥だ」と言われるシーンがありました。
ただ個人的には、単なるパフォーマンスと思われてたとはいえ、メイクをし女性的なパフォーマンスをするスポーツ選手がいるというだけで、同じ時代の日本と比べても理解は進んでいるのかなと感じました……トゥムの実力が伴っていたからってのもあるとは思いますが。
まとめ
当時日本では『オカマのキックボクサー』なんて侮蔑っぽい呼ばれていたりしますが、現在ではトランスジェンダーと言う言葉も広まってきて、そんなふうには呼ばれない時代になったかと思います。ちなみに映画のタイトル『ビューティフルボーイ』は英題は『Beautiful Boxer(ビューティフルボクサー)』で原題のタイ語も同じ意味です。邦題ではトゥムのアイデンティティを無視したようなタイトルになっていて「なんだかなぁ」という気分です……たぶんジョンレノンの楽曲『ビューティフル・ボーイ』になぞらえたのかなと思ったり。
さらにさらにちなみに、2018年のアメリカ映画にも同タイトルの『ビューティフルボーイ』という映画があります。こちらは実話をもとに、薬物依存症に陥ってもがき苦しむ青年と彼を懸命に支え続ける父親の姿を描いている作品でタイ映画の『ビューティフルボーイ』と同じく伝記映画となっていて…なんていうかややこしいですねw
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