あらすじ
江戸幕府将軍・徳川家光の時代、関東のとある田舎村で熊に襲われた少年を発端に、後に「赤面疱瘡」と呼ばれる奇妙な病が日本中に広がっていった。この病は「若い男子にのみ感染」「感染すれば致死率80%」ということ以外対処法も治療法も発見されず、結果として男子の人口は女子の約1/4にまで激減し、日本の社会構造は激変した。男子は希少な種馬として育てられ、他家に婿に行くか、婿の取れない貧しい家に一晩いくらで貸し出されるか、遊郭で体を売るかの人生を送ることに。
一方、女子はかつての男子の代わりとして労働力の担い手となり、あらゆる家業が女から女へと受け継がれるようになる。江戸城でも三代家光以降将軍職は女子へと引き継がれ、大奥は将軍の威光の証であるがごとく希少な男子を囲い、俗に美男三千人などと称される男の世界が築かれていた。
▼映画『大奥~永遠~[右衛門佐・綱吉篇]』予告編▼
感想
『大奥』は、よしながふみによる少女漫画で2004年から2021年まで連載されました。2010年には吉宗編が実写映画化され、2012年に『大奥〜誕生~[有功・家光篇]』がテレビドラマ化、同年に映画第2作による続編として『大奥〜永遠〜[右衛門佐・綱吉篇]』が製作されました。
日本の江戸時代をモデルとした世界で、謎の疫病で男子の人口が急速に減少した結果、社会運営の根幹や権力が男から女に移っていく様を江戸城の大奥を中心に描いておて、徳川家の代々の将軍達や要職にあった者など、歴史上では男性である人物が女性に、女性である人物が男性に置き換えられていて、いわゆる歴史改変ファンタジーといった感じ。
しかしそこかしこに「本当にこうだったかも」という細かい作りがされていて、権力が女性に移っていた経緯や大奥のあり方などにかなり説得力を感じる作品です。
しかしそこかしこに「本当にこうだったかも」という細かい作りがされていて、権力が女性に移っていた経緯や大奥のあり方などにかなり説得力を感じる作品です。
映画『大奥』より
男女逆転から見えてくるもの
ただただ男女を逆転させたストーリーというわけではなく、男女を逆転させたことでジェンダーや政治の問題点が見えてくるのが分かります。男性の地位が著しく下がったものの、家督を女性が継ぐ際には男性名を名のらなければならなかったり、女性蔑視な発言が飛び交うなど、男尊女卑な考えや凝り固まったジェンダーロールは健在なようすが伺える。個人的に「役割を逆転させただけでは性差別はなくならない」というメッセージ性と課題を感じました。
男女逆転の設定が可視化したのは、そういった「性差別はなくならない」というメッセージ性だけではなく、権力のジェンダー非対称性さもそう。役割が逆転してもしなくても、男性だから女性だからということよりも、この歪な政は、どの将軍にとっても大奥は悲しい場所になっています。こういった男女逆転から見えてくることは、今のジェンダーの歪さを物語っているのかもしれませんね。
映画『大奥~誕生~[有功・家光篇]』より
大奥の同性愛要素
作中では男女逆転というジェンダーに関することだけじゃなく、セクシュアルな部分も描いています。例えば、大奥内では男性同士の性的関係も描かれていたり、性的関係のあった男性2人を将軍が問い詰めるシーンもあったりします。映画『大奥〜永遠〜[右衛門佐・綱吉篇]』では徳川綱吉(女)に恋愛的執着を見せる柳沢吉保(女)も描かれており、これは史実でも似た感じで柳沢吉保(男)は徳川綱吉(男)と性的関係にあったためスピード出世したとも言われています。そもそも綱吉自体、生類憐みの令やマザコンぷりが有名すぎて霞むけれど、約130人もの小姓がいたとかなんとか。すごいですね。
映画『大奥~永遠~[右衛門佐・綱吉篇]』より
「大奥」シリーズ紹介
映画第1作は原作第1巻を映像化したもので、大奥の大リストラが有名な吉宗編で、作中の男女逆転具合は「家を継ぐのは女性」「花町の遊女は男性」「政は女性」「働くのは女性」といったのが当たり前になりつつある環境でしたが、テレビドラマでは「どうして男女逆転の大奥が生まれたのか」を描いた大奥誕生編を描いています。大奥~誕生[有功・家光篇]
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大奥 ~永遠~[右衛門佐・綱吉篇]<男女逆転>
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すごい邦題(笑)ですが、原題(アメリカのSF作品)は「兄弟の価値」と素朴なものです。
世界観は近代初頭ぐらいの西洋っぽい文明を持つ王国で、なぜか「男が女の1/20しか生まれない」という設定。(原因は最後まで不明)
そのため婚姻関係や男性の立場が以下のようになっています。
・一夫多妻は当然、男が平均20人ぐらいの女性と夫婦になり、妻1人が平均1人ちょっと子供を産む。したがって20人ちょっとぐらいの異母姉妹(+男子1人)が1家族の平均的な子供。
(ちなみにこのシステムのためか「母とおば」の区別があいまいで「母たち」でほぼ一括、主人公も家族の書類を読んでて「自分と弟は母も祖母も共通性ないのか」と初めて気が付くほど)
・結婚適齢期になると男は婿に行き、お互い婿を交換するのが円満な婚姻パターン。いない場合や余った場合は売買される。
(これが原題の「価値」の意味です)
単純に男女立場逆転ではなく、兵士は女性ですが家事も女性がやっていて、男は子供の遊び相手でもすれば十分良い父親とされるような世界はやや珍しいかも?
(主人公はそこそこ家事もできるが、主人公の家庭は変わっているのでよくあるのかは不明。)