小川町セレナーデ


あらすじ

とある町に佇む小さな“スナック小夜子”。今夜もその灯りを求めて、さまざまな常連客が集ってくる。“スナック小夜子”をオープンしたのは、ママの真奈美がシングルマザーとして娘・小夜子を育てるためだった。

20年前、オカマのショーパブで舞台スタッフをしていた真奈美は、スター・ダンサーであるエンジェルと仕事仲間として友情を分かち合っていたが、エンジェルがタイへ出発する前夜、酔っぱらって二人は男女の関係に…。

▼映画『小川町セレナーデ』予告編▼

感想

『小川町セレナーデ』は、2014年公開の日本映画。ほとんどのロケは神奈川県川崎市で行われ、「かわさき街おこしシネマプロジェクト」の設立に市民から製作費の約30%に当たる約2000万円の協賛金が集まった。主な舞台となった「スナック小夜子」は川崎区内の空き店舗が活用され、地元の工務店が内装工事を担当したり、市民の130名がエキストラ登録するなど、さまざまなバックアップを受けて制作された映画である。

潰れかけのスナック「小夜子」を再建するために小夜子は偽のオカマバーを開くという、オカマバーのノウハウを学ぶために実の父親とは知らず、オカマのエンジェルに助けを求め、その過程で家族や恋愛など失敗して失敗して学んでいくお話。

オカマの父、スナックを運営するママ、スナックの娘、それぞれの人生を端的も描いていて情報過多な設定かと思いきや、意外にもバランスが良く、綺麗に盛り込まれていて、ストーリーもごちゃつくことなくシンプルに家族や周囲の人の温かさにほっこりする作品だと思いました。

※「オカマ」は蔑称ですが、作中では「オカマ」と言い合ってるので、本記事でも「オカマ」という単語を使わせていただきます。

小川町セレナーデ03
映画『小川町セレナーデ』より

女性がオカマを演じるオカマバー

閉店してしまった「スナック小夜子」を再建するためとはいえ、今までの街のこじんまりしたスナックを辞めて、オカマバーにするというのは大胆な発想。しかもキャストの亮子と小夜子は女性でオネエ(オカマ)だと偽ってパフォーマンスをするという豪胆っぷり。

オカマのエンジェルの厳しい指導もありながら、オープンした「(偽)オカマバー小夜子」は大盛況になるものの、店に来ている客にそれぞれ恋をしてしまったことから、女性でありながらオネエ(オカマ)だと偽ってお客の前に立つことに違和感を覚えだした2人。

好きな人にはオネエ(オカマ)ではなく女として見てもらい、でも「実は女だ」と言ってしまったら、他のキャストやお店にも迷惑が掛かるという葛藤は面白かったですね。そしてそんな悩める2人の背中を押すのがスナックを運営してる母親の真奈美とオカマの父親エンジェルってのも良い。

小川町セレナーデ02
映画『小川町セレナーデ』より

エンジェルの本当の気持ちは

個人的にはオカマの父親エンジェル役の安田顕のエンジェルっぷりが良かったです。エンジェルはタイに言って性別適合手術をするほどなので、実生活では女性として過ごしているパターンですが、男性キャストの安田顕さんが演じることで、女性らしさとどことない男性性の絶妙なバランスになっていてエンジェルを生み出せたのかなと感じました。

性自認は(多分)女性であるエンジェルは、娘である小夜子は自身が男性であると突きつけられてしまうという理由の真奈美の配慮で距離を取って暮らしていました。しかし、娘小夜子に会ったエンジェルはどう思ったのか。多くは語られませんでしたが、そこまで「突きつけられる男性性」を感じなかったのか、感じても父性が勝ったのか、それは最後まで分かりませんでしたが小夜子にとってはかけがえない人物になったのかなと思います。

またこれは勝手な考察ですが、ラストのラーメン屋でのやりとりや釣り堀でのやりとりを見るに男とか女とかの枠ではなくエンジェルと言う枠に自分を置いていて、真奈美が心配していたような「娘の存在が男性性と突きつけられる」という心配はなかったのかなと思います。それをエンジェルは偽のオカマバーやラーメン屋でのやり取りを経て気づいていった感じかなと。

小川町セレナーデ01
映画『小川町セレナーデ』より

まとめ

人生は思い通りよりも“いい感じ”の方がいい。

常連客のおじいちゃんが言うセリフですが、紆余曲折あって思い通りにならなくて、泣いて辛くて、でもなんだかんだいい感じに収まった、エンジェルと真奈美、小夜子、そして「スナック小夜子」にぴったりの言葉だと思いました。

シリアスな展開もあれど全体的にコメディで楽しめる作品です。個人的に小夜子の男運のなさが徹底されてて面白かったです。ラストは真奈美とエンジェルが少女を挟み釣り堀をするシーン、会話から察するにいろいろ思い通りにいかないことも多いんでしょう。でも「思い通りよりも“いい感じ”の方がいい」と思える人生なのだと教えてくれる3ショットでした。

小川町セレナーデ04
映画『小川町セレナーデ』より

【関連記事】
【名建築に隠された愛憎】ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ【LGBTQ 映画】
【性別違和✕韓国相撲】ヨコヅナ・マドンナ【LGBTQ 韓国映画】
【普通の専業主婦が退屈からの脱却!】夢見る頃を過ぎても【LGBTQ 映画】
【詩人ロルカからの熱い想い】天才画家ダリ 愛と激情の青春【LGBTQ映画】
【レズビアンに突然告白されて…】ある日、突然。【LGBTQ映画】