女王陛下のお気に入り


あらすじ

18世紀初頭、フランスとの戦争状態にあるイングランド。人々は、アヒルレースとパイナップル食に熱中していた。虚弱な女王、アンが王位にあり、彼女の幼馴染、レディ・サラが病身で気まぐれな女王の世話をし、絶大な権力を振るっていた。

そんな中、新しい召使いアビゲイルが参内し、その魅力がレディ・サラを引きつける。レディ・サラはアビゲイルを支配下に置くが、一方でアビゲイルは再び貴族の地位に返り咲く機会を伺っていた。

戦争の継続をめぐる政治的駆け引きが長びく中、アビゲイルは女王の近臣としてサラに救いの手を差し伸べる。急速に育まれるサラとの友情がアビゲイルにチャンスをもたらすが、その行く手には数々の試練が待ち受けていた。

▼映画『女王陛下のお気に入り』予告編▼


感想

『女王陛下のお気に入り(The Favourite)』は2018年製作のイギリス・アイルランド・アメリカ合作の歴史映画。監督はヨルゴス・ランティモス、主演はオリヴィア・コールマンが務め、共演はエマ・ストーン、レイチェル・ワイズ。18世紀初頭のイングランドを舞台にアン女王の寵愛を奪い合う女性2人のしたたかな攻防を描いた宮廷ドラマです。

何よりもメイン3人の演技が素晴らしい、繊細で臆病でわがままなアン女王の内に秘めた孤独や心細さを演じ切ったオリヴィア・コールマン、強かで女王に代わり政治を行おうとするサラの狡猾さを演じ切ったレイチェル・ワイズ、没落した貴族から這い上がり返り咲こうとするアビゲイルの内なる野心を見事に演じ切ったエマ・ストーン。

そして宮廷映画である、衣装の豪華絢爛さ、建築物の美しさが目を惹きます。魚眼レンズを多用したり、パノラマのような横に長いカットを多用したりと、空間が広く煌びやかであると同時に、キャラクターの心情を反映させたかのような歪みをも感じさせる造りになっています。

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映画『女王陛下のお気に入り』より

女王の寂しさの象徴であるうさぎ

注目すべきはやはり「うさぎ」と「足・脚」でしょうか。アン王女は史実でも17人の子どもを失っています。その子たちの代わりの17匹のうさぎたち。このうさぎはアン女王にとって子どもたちの代わりと同時に寂しさの象徴で、女王陛下のお気に入りになるための手がかりでもあったと思います。

サラはアン女王のお気に入りであったのだけれど、うさぎとは距離を取り触ろうともしない、サラが最後までうさぎを触ろうとしない理由は分かりませんでしたが、その隙がアビゲイルにつけ入れられたともとらえられます。

アビゲイルはサラとは違って初見で、うさぎに興味を示し、抱きしめます。そしてこのうさぎたちがアン女王の亡き子どもたちの化身と知るや否や、取り入る鍵だと判断し、贔屓にします。しかし、そんなアビゲイルもうさぎが原因で女王からの信頼を失うのはまさに因果ですね。

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映画『女王陛下のお気に入り』より

続いて脚(足)もキーポイントだと思っています。史実の女王もブランデーの飲み過ぎで肥満になり歩行が困難だったとあり、映画のアン女王も杖や車椅子つかって歩行したり、痛風が原因で脚の痛みを訴えたりしていました。

サラはアン女王の脚の代わりにと車椅子を押してあげたりしていますが、裏を返せば「アン女王を意のままに操って政治を取り仕切る」暗喩で、それは物語冒頭サラが王冠を取り外してあげるシーンもそういった意味が込められていそうです。

反対にアビゲイルは女王を車椅子から立たせダンスを踊ったり、杖を奪ったりして、とにかく女王を歩かせようとしています。実はこれ、アン女王を自由にさせているようで、やり方が違うだけでアビゲイルもアン女王を操縦しようとしているだけ。

飴と鞭、厳しく本音をズバズバ言うサラと甘やかしお世辞を言うアビゲイル、2人揃えば立派なアン女王の脚にもなれそうなポテンシャルだったのに、そうはいかないのが女同士の闘いなのかなと思いました。

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映画『女王陛下のお気に入り』より

この映画は史実なのか?

映画『女王陛下のお気に入り』は18世紀初頭の実在の人物を題材としており、アン女王やサラ、アビゲイルも実在の人物です。ではこの映画は史実どうりかといったらそうではなく、かなり脚色されているようです。

衣装にはデニムやモノトーン配色など、当時はなかった要素が取り入れられており、アビゲイルが宮廷に上がったタイミングも史実は若干違うようです。1708年に逝去したアン女王の夫ジョージ王配も登場せず、1707年の国号変更や、フランス王国等との北米大陸における戦争にも触れられていないなど、本当に描きたかった部分をピックアップして脚色してはいるようです。

他にもアン女王が17人を子を失ったことは史実ですが、代わりにうさぎを飼っていたということはなかった、サラが宮廷を休みがちになったのは史実ですが、アビゲイルに毒を盛られたとか行方不明だったということはなかった、物語序盤にサラとミシェルが踊ったダンスも当時の宮廷ではありえないものなんだとか。

こういったフィクション要素はヨルゴス・ランティモス監督の持ち味のひとつで、敢えてフィクションを分かりやすく混ぜ込み、メインのメッセージ性を浮き彫りにするテクニックは面白いです。ただ、アン女王とサラ、アビゲイルの同性愛要素は史実かどうか…調べたけれど分かりませんでしたw

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映画『女王陛下のお気に入り』より

まとめ

本作に関して、“歴史コメディ”という文言をよく目にしますが、実際見てみるとコメディというほど、面白い要素もなく、心の弱いアン女王の生涯が描かれ、そんな女王に取り入ろうとサラとアビゲイルのバトルがバチバチあるといった感じ。でもメインはアン女王がサラやアビゲイルを通じで何を得て、何を失ったかを問う映画だと感じました。

ラストの何かを覚悟したサラ、真実を知ったアン女王、そしてアン女王の思惑に気づいてしまったアビゲイルの表情とうさぎたちが問いのない答えを示しているようで魅入られる作品でした。

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映画『女王陛下のお気に入り』より

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