ルートヴィヒ (2)


あらすじ

15歳の時に歌劇「ローエングリン」を観たことで、白鳥の騎士“ローエングリン”に憧れワーグナーを崇拝するようになったルートヴィヒ。

世継ぎの宿命を負った皇太子でありながら、政治にも権力にも興味を持たない彼は芸術だけに夢中だった。そんなある日、父の急死により心の準備が整わないまま、わずか18歳にして王座に就いたルートヴィヒ。

その頃、バイエルン王国が所属するドイツ連邦では、オーストリア帝国とプロイセン王国の衝突により戦争が避けられない状況にあったが、そんな中でもルートヴィヒは「国民の安全に必要なのは、詩と音楽の奇跡だ」と謳い、ワーグナーを宮廷に招き入れ独自の理想を掲げていくのだったが・・・。

▼映画『ルートヴィヒ』予告編▼

感想

『ルートヴィヒ(Ludwig II.)』は、2012年のドイツの映画で、「狂王」の異名で知られる第4代バイエルン国王ルートヴィヒ2世の即位(1864年)から死(1886年)までを描いています。

ルートヴィヒ2世は過去に何度もモチーフにされており、『ルートヴィヒ2世 - ある王の栄光と没落(1955年)』、『ルートヴィヒ(1972年)』、『ルードウィッヒ1881(1993年)』とあり、今回ご紹介する映画で4作目。また森鷗外の短編小説『うたかたの記』にもキーパーソンとして登場します。

そんなルートヴィヒ2世の即位から謎の死までを描いており、内容は「芸術分野への陶酔」「性的指向においての苦悩」「弟の心の病」「戦争と平和」などなどをギュギュっと詰め込んだ感じで、なにかすごくドラマチックなことがある、というより、常に何かドラマチックなことが起こってる状態を体感できる作品です。

また建築物や美術がかなり豪華で煌びやか、こういった「王の苦悩」を描いた作品での豪華絢爛な背景は豪華であればあるほど、ごちゃごちゃしているほど虚無感と言うか、必死に王としての体裁を保つためのお飾り感が増してすごく好きで、この作品はそれに加えて音楽も重厚感のある感じが王の考えとミスマッチしていて、そういった部分も楽しめる作品だと感じました。

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映画『ルートヴィヒ』より

ルートヴィヒ2世はどんな人物か

ルートヴィヒ2世を知らない人からすると「誰それ?」って感じだと思うので、簡単に説明すると、第4代バイエルン国王で、バイエルンは現在のドイツのバイエルン州あたり。戦争が当たり前の時代に戦争を嫌い、芸術、とりわけ作曲家ワーグナーに陶酔していた王です。

王としてはかなり異端だったため「狂王」や「メルヘン王」などと呼ばれていました。日本ではディズニーランドのシンデレラ城のモデルとなった「ノイシュヴァンシュタイン城」を作った人でも有名で、シンデレラ城の他にも『名探偵コナン』や『SPY×FAMILY』にもノイシュバンシュタイン城をモデルにした建物が登場します。

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ルートヴィヒ2世が建設したノイシュバンシュタイン城

彼自身は眉目秀麗で身長が190㎝以上あったことから、よく絵画のモデルにもなっています。そのため、彼を演じたザビン・タンブレアは「身長190センチ以上」「30歳未満」「フランス語を話せる」「乗馬が得意」という条件をクリアし370名の候補者から抜擢されました。なかなかハードルの高い条件ですね。

戦争嫌いな王でも有名で、映画でも何度も戦争反対を掲げていますが、当時の認識は「戦争はして当たり前」という考えで、プロイセン王国とオーストリア帝国との戦争「普墺戦争」やフランス帝国とプロイセン王国の間で行われた戦争「普仏戦争」に巻き込まれている。

しかも弟オットーは戦争で心を病み、奇行を繰り返すようになると、王であるルートヴィヒ2世もまた現実から目を背けるようになった。そこから、バイエルン政府はあの手この手を使ってルートヴィヒ2世を廃位。その後ベルク城に送られ、翌日の6月13日にシュタルンベルク湖で、医師と一緒に水死体となって発見され、謎の死を遂げている。

その知らせを受けたルートヴィヒ2世の唯一の女性の友人エリーザベト皇后は「彼は決して精神病ではありません。ただ夢を見ていただけでした」と述べている。

「狂王」「メルヘン王」などと呼ばれ、「ダメ王」「愚王」なんていう人もいますが、現在の価値観で言うと、当時の王としてはあるべき姿ではなかったのかもしれないけれど、人としては平和を願い、愛に飢え、芸術を愛した、豊かな人だったのだなと感じました。

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映画『ルートヴィヒ』より

ルートヴィヒ2世の性的指向

ルートヴィヒ2世に有名な逸話のひとつとして同性愛指向があり、ルートヴィヒ2世は近侍させた美青年たちを愛し、女性を嫌忌していたそうです。映画でも厩舎長リヒャルト・ホルニヒと親しい関係が描かれていました。

また女性とは距離を取っていたルートヴィヒ2世ですが、オーストリア皇后エリーザベトだけには、女性でありながら唯一心を許していたそうで、それは彼女もまたルートヴィヒ2世と同じく堅苦しい宮廷を嫌っていたからだそう。

しかし、王の将来を心配していたエリーザベト皇后は、自分の妹ゾフィー・シャルロッテを王妃として推薦した。ルートヴィヒはゾフィーと婚約したものの、延期に延期を重ね、最終的には婚約を解消。それに伴って、ルートヴィヒ2世とエリザベート皇后は仲違いをしてしまったと言われています。映画ではルートヴィヒ2世はゾフィーとキスだけで嫌悪感を露わにして拒絶していました。よほど女性が苦手なようです。

彼の性的指向に関しては彼自身も男性が恋愛対象であること、女性がどうしても受けれ入れられないこと、男性への想いを何度断ち切ろうとしてもダメだったことが彼の手記から読み取れます。またエリザベート皇后もルートヴィヒ2世の性的指向を知っていたのでは?という説もあるそうで、知っていたからこそ、当時の同性愛の厳しさや王族としての後継などを危惧していたのかなと思います。

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映画『ルートヴィヒ』より

まとめ

何度も何度も映像化されたり、彼の建築したお城が様々な作品のモチーフになったりと、話題性のあるルートヴィヒ2世。その生涯を見てみると確かに波乱万丈というよりは常にクライマックスといったくらい、大きな出来事が起こる人だと分かり、今でもモチーフになるのも頷ける人生です。

確かに王としては狂っていて夢見がちで「狂王」なんて呼ばれても仕方のないのかもしれません、でもその狂った原因が、同性愛が悪で戦争当たり前な当時の世の中が生み出したものだとも思いました。

そんなルートヴィヒ2世の半生を描いた『ルートヴィヒ』、10年後20年後見たらまた違った感想を描くだろうなと思った映画であり、ルートヴィヒ2世の人生でした。

ルートヴィヒ02
映画『ルートヴィヒ』より

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