ダンサー


あらすじ

19世紀末のパリ。アメリカからやって来た無名の女性ダンサー、ロイ・フラーの踊りに人々は熱狂する。シルクの布をはためかせながら舞う幻想的なパフォーマンスは、ロートレックやロダンら芸術家たちの心もつかんだ。

女性によるダンスが社会的な地位を得ていない時代、ロイは照明や鏡を演出に取り入れ始めた。

▼映画『ザ・ダンサー』予告編▼


感想

『ザ・ダンサー(La Danseuse)』は2016年のフランス・ベルギーの映画。  19世紀末の実在の伝説的ダンサーで「モダンダンスの祖」と称されたロイ・フラーを描いていて、 原作はジョヴァンニ・リスタの小説『Loïe Fuller : Danseuse de la Belle époque』。

実在するダンサー、ロイ・フラーの物語を描いているとは言え、かなりフィクションを盛り込んでいるらしく、ロイ・フラーと同じくモダンダンスの祖と呼ばれたイサドラ・ダンカンに執着する様子が描かれていますが、実際はかなりそりが合わなかったとか、ロイに熱をあげるオルセー伯爵は架空の人物だったりするそうです。

しかしながら、ロイ・フラーの特徴でもあるダンスに関しては、忠実に再現しているそうで、ダンスは本当に優雅で美しく、そして力強く表現されていました。特にラストのロイの満身創痍のダンスパフォーマンスは圧巻です。

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映画『ザ・ダンサー』より

革命的ダンサー「ロイ・フラー」

ロイ・フラーは、アメリカ出身のダンサーで、モダンダンスの祖と言われています。それまでのダンスというのは作中でもあるように、「気晴らし」や「娯楽」的な側面が強く、芸術とはみなされなかったそうです。

そこに動き、照明、衣装、音楽が一体となって構成されるダンスを生み出し、その画期的な業績ゆえ、「芸術としてのモダンダンス最初のパフォーマー」などと呼ばれることもあるそうです。その芸術としてのダンスは様々な芸術家や著名人に評価され、光と色彩を効果的に用いたその幻想的なダンスは一世を風靡したのだとか。

1900年にパリで開催された世界万国博覧会では、ロイ・フラー劇場を設けてパフォーマンスを披露し、その名を世界に広め、日本人ダンサーの川上貞奴の後押しをし、ダンスの世界に新風をもたらしたイサドラ・ダンカンを支援するなど新たな才能の発見と育成に努めました。

そんな実績から20世紀初頭のダンス界のみならず、現在のアート、演劇、映画に多大な影響を与えた人物と言われています。

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映画『ザ・ダンサー』より

ロイ・フラーのセクシュアリティ

ロイ・フラーは結婚していた時期もありますが、同性愛者で映画でも少しだけその様子は描かれています。映画ではライバルポジションのイザドラ・ダンカンと恋仲になりそうな雰囲気だったのにも関わらず、イザドラの裏切りによりロイが屈辱を味わうような描き方でした。

イザドラ自身もバイセクシュアルだったそうですが、史実のロイとイザドラがそういう関係だったかどうか不明なようで、むしろそりは合わなかったのだそう。

そして映画にも登場するロイのマネジメントをしている女性ガブリエル・ブロック。彼女も実在した人物で、ロイを献身的にサポートしていたようでした。映画ではそんな関係は一切描かれずにいましたが、史実では彼女がロイの生涯のパートナーだったようです。

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映画『ザ・ダンサー』より

対のライバル「イザドラ・ダンカン」

映画ではまるで少年漫画のように努力型のロイ・フラーと天才型のイザドラ・ダンカンの対比がとても美しいです。

一夜にして大スターになったロイの前に、彗星の如く現れたイザドラ・ダンカン。ロイと同じくアメリカ出身のイザドラは、モダン・ダンスの祖としてはフラー以上に有名かつ高い評価を受けている人物である。実際ダンサーでもイザドラは知っててもロイは知らないという人も多いのだとか。

ロイはそのイザドラの才能に圧倒され、薄い布地でも露わになった容姿もスタイルも美しい。半面ロイは容姿もスタイルもそんなに良くはなく、巨大な布や照明という鎧なしには輝くことのできなかった。こんな対比はまさに少年漫画のようですが、現実は漫画のようにはいかずロイはその才能と裏切りに打ちのめされてしまいます。

この単なる努力型のサクセスストーリーに留めなかった点がこの映画の魅力を突き上げているのかもしれません。

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映画『ザ・ダンサー』より

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