summerof85


あらすじ

16歳のアレックスはセーリングの最中に嵐に会いヨットが転覆するが、たまたま近くを通りかかった18歳のダヴィドにより救助される。その後仲を深めていく2人の関係性はやがて恋愛に発展し、ダヴィドは「どちらかが先に死んだら、残された方はその墓の上で踊る」という誓いを立てる。

しかし、ある時ダヴィドが不慮の事故により命を落とす。失意に暮れるアレックスは、ダヴィドとの誓いを思い返し行動を起こす。

▼映画『summer of 85』予告編▼


アレックスの主観で進む物語

『Summer of 85(Été 85)』は、2020年のフランス・ベルギー映画。監督・脚本は『ムースの隠遁』『彼は秘密の女ともだち』のフランソワ・オゾン。エイダン・チェンバーズの小説『おれの墓で踊れ』の一部を原作としているそう。

パッケージや予告編をざっと見た感じだと『君の名前で僕を呼んで』や『マティアス&マキシム』のようなボーイミーツボーイの恋愛作品かと思っていたら、扱うテーマが男の恋愛やひと夏の思い出というよりも「死の価値観」だったことに驚きました、よく考えたらオゾン監督がシンプルにひと夏の青春を描くはずはないなと分かりそうなもんなんですけどね。

内容はやや運命的な出会いを果たしたダヴィドとアレックスが急速に打ち解け、恋仲になり、仲違いをして…という話をアレックス視点で描いていて、しかもただアレックス視点ではなく、アレックスがダヴィドのことを想い書いた手記という体のストーリー。

これがアレックスの主観というだけでなく、アレックスが死と向き合うプロセスだったり、これはあくまでもアレックスの物語であって、他の誰のものでもない、ましてやダヴィドの物語ではないことも読み取れるつくりになっていました。

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映画『summer of 85』より

謎が深まるダヴィドの行動

ダヴィドとアレックスは運命的な出会いを果たします。2人の仲は急速に進展して恋仲になり、別れの時の6週間、何度も何度も逢瀬を重ねてきましたが、ダヴィドはアレックスを突き放します。

それまでダヴィドはやや浮気性な部分が見え隠れしてはいたけれど、本当にアレックスを愛していたように見えたし、ましてや堂々と他の女性と浮気するよう行動には少し疑問でした。

しかしアレックスを突き放したときに見せた一筋の涙が「本当に好きだけど敢えて突き放す」のように感じてしまい、ダヴィドのこの一連の行動には意味があるのだと考えました。それは結局物語がアレックス視点での物語になっているので、ダヴィドの真意は答え合わせすることなく終わります。

これはあくまでも私の考えですが、ダヴィドはダヴィドであってダヴィドではなかったのかなと思います。初登場から強烈なインパクトを放つダヴィドの母がおり、連れてきたアレックスを全裸にして品定めし、ダヴィドもアレックスも自分の傍に置き、ダヴィドが死ねばアレックスを罵る。

かなり情緒不安定な様子で描かれていたダヴィドの母は、息子ダヴィドを自分の死んだ夫を重ねていて、ダヴィドは自分と言う存在が希薄だったのかなと感じました。それ故に、ダヴィドがダヴィドでいられる存在のアレックスが怖かったのかなと推測。ここらへんは観た人によって感想が変わりそうですね。

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映画『summer of 85』より

「死への執着」「同性愛」「文才」共通項の多いけど極端な2人

出会った時から積極的なダヴィドとそんなダヴィドに押し負けて割と受け身な性格のアレックス。正反対のような2人ですが、共通項も多く、でもやっぱり反対…という不思議なキャラクター関係。

2人とも共通して「死」というものに執着しています。しかし執着の仕方は2人とも違っていて、アレックスは「死ってどういうもの?」「死んだらどうなる?」といった思春期にありがちな「死の概念」に執着する姿勢。

反面、ダヴィドはアレックスのように口に出すわけではないが、そのギリギリの生きざまからかなり「死」に執着していることが分かります。アレックスに「どちらかが先に死んだら、残された方はその墓の上で踊る」と提案したのもダヴィド。

ダヴィドの死の執着は、どこか身近であり、アレックスのような精神的な死よりも肉体的な死を示唆するような雰囲気です。

また2人の共通点として「文才」があげられます。教師のルフェーブルが2人の文才に目を付け、文章を書くことを提案しますが、ダヴィドは断り、アレックスは提案を飲み手記を書き始めました。この差はダヴィドは自分が自分でないことを知るのが怖くて断り、アレックスは「死への執着」と同時に「生への執着」も備えていた暗示のように私は感じました。

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映画『summer of 85』より

まとめ

フランスのノルマンディーの風景も素敵で、どこを切り取っても爽やかでフォトジェニックな風景に癒されます。そしてラストの圧巻の「墓の上のダンス」。本来、墓の上でダンスを踊るというのは、死者を冒涜する行為ですが、アレックスの踊ったダンスは、2人がディスコで踊ったようなダンスではなく、どちらかというと儀式的で、ダヴィドを尊ぶような踊りは感傷的な気分にさせてくれます。

80年代のひと夏の男の子同士の恋愛物語…のようで「死」をテーマにしていて一筋縄ではいかない映画だと感じました。「死」がテーマだと言うと重苦しく、哀しい気分になることも多いですが、本作は意外にも視聴後感は良く、未来を感じました。

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映画『summer of 85』より

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