ジョン・F・ドノヴァン


あらすじ

アメリカの人気俳優ジョン・F・ドノヴァンがこの世を去ってから10年。

1人の新人俳優ルバートが、少年時代に交わしていたドノヴァンとの文通を公開する。やがてルバートは、そのときの記憶を回想してドノヴァンの死の真相を明かしていく。

▼映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』予告編


作品解説

『ジョン・F・ドノヴァンの死と生(The Death & Life of John F. Donovan)』は2018年のイギリス・カナダのドラマ映画。

監督は『マティアス&マキシム』『たかが世界の終わり』などのグザヴィエ・ドラン。ドラン監督が8歳の頃に映画『タイタニック』に出演していたレオナルド・ディカプリオにファンレターを書いたという思い出をヒントにした作品で、ドラン監督にとって初の英語作品となった。

ドラン監督は『マイマザー』や『Mommy マミー』など母や家族との関わりを、自身の経験を交えながら独特の視点で描くことにも長けていて、本作でもジョン・F・ドノヴァンと母との確執、ルバートと母との確執も描いています。

過去作品に比べると、尖った要素は薄く、センセーショナルな部分もありますが、それ以上に穏やかな印象を受ける作品です。

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映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』より

ジョンにとっての死と生

ジョン・F・ドノヴァンにとって死と生とはなんなのか、というのが物語の鍵だと思っています。

物語は「ジョン・F・ドノヴァンの死」から始まります。これをジョンの「死」とするの安直だと私は思っていて、それはジョンが生きていながらも死んでいたから。

ジョンは役者としてのジョン・F・ドノヴァンをビジネスの場面でもプライベートな面でも求められていたあまり本来のジョンを押し殺してしまっていた。同性愛者であるジョンは同性愛者だと言えずに、家族や仲間との関係もこじれてしまい、24時間俳優ジョン・F・ドノヴァンを求められることに苦悩していた。

役者としてのジョンは生きていたけど、ジョン本人はすでに死んでいた。物語冒頭の「ジョン・F・ドノヴァンの死」は当然「(役者の)ジョンが死去した」と一斉報道されたため、肉体的に死んでいても「役者のジョン」は生き続けていると私は解釈しました。

そうなるといつ「本来のジョンの生」はあるのか?という疑問は、長年文通をしていたルバートが手紙をジョンの意志によって公表したことによって「本来のジョン」が息を吹き返したのだと、私は思います。

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映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』より

ルバートの生きる道

大人でスターの俳優ジョン・F・ドノヴァンがまだまだ少年のルバートとどうして文通をしていたのか。

それはジョンにとっては24時間役者でい続けることで仕事仲間も家族も友人も虚構のものだったところに、ジョンと同じく母親や学校での仲間と距離があり、同じような境遇のルバートに共感した部分があるからだと思います。

お互いがお互いに、手紙のやりとりの中だけでも「本来の自分」をさらけ出すことができたというのも、文通を続けられることができた起因だと思います。

しかし、ジョンとルバートは徹底的に違った部分があります。それはジョンと違ってルバートは、自分に正直に生きることにしたこと。ジョンが最後の手紙の中で、「君には自分のような生き方は選ばないで欲しい。」と綴っていたことから、ジョンの最後の希望だったのだと感じました。

そうして10年後に若手俳優となり人気を博しているルパートがどんな生き方を選んだのかと言うと、それはまさしくジョン・F・ドノヴァンが望んだ生き方だったと言えます。

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映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』より

まとめ

『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』。過去のドラン監督作品と比べると棘がないとかかなりマイルドと言われる本作ですが、それでもドラン色満載の作品だと私は思います。

個人的にはインタビュアーのオードリーの最初と最後の心境の変化は見ものです。というか、他の登場人物のほとんどは心境の変化はあるものの、そこまで大層に描かれていないので、オードリーのリアクションが新鮮に感じるほど。

そして、ジョン・F・ドノヴァンの死と生の物語はオードリーに心境の変化と様々な解釈を与えるほど影響力のあったものという描写も感じ取れて面白いです。

また作品のところどころに、ドラン監督が影響を受けたであろう作品のオマージュが盛り込まれていてその点でも楽しめる作品となっています。

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映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』より

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