
あらすじ
今野秋一は、会社の転勤をきっかけに移り住んだ岩手・盛岡で、同じ年の同僚、日浅典博と出会う。慣れない地でただ一人、日浅に心を許していく今野。
二人で酒を酌み交わし、二人で釣りをし、たわいもないことで笑う…まるで遅れてやってきたかのような成熟した青春の日々に、今野は言いようのない心地よさを感じていた。
二人で酒を酌み交わし、二人で釣りをし、たわいもないことで笑う…まるで遅れてやってきたかのような成熟した青春の日々に、今野は言いようのない心地よさを感じていた。
夜釣りに出かけたある晩、些細なことで雰囲気が悪くなった二人。流木の焚火に照らされた日浅は「知った気になるなよ。人を見る時はな、その裏側、影の一番濃い所を見るんだよ」と今野を見つめたまま言う。
突然の態度の変化に戸惑う今野は、朝まで飲もうと言う日浅の誘いを断り帰宅。しかしそれが、今野が日浅と会った最後の日となるのだった—。
突然の態度の変化に戸惑う今野は、朝まで飲もうと言う日浅の誘いを断り帰宅。しかしそれが、今野が日浅と会った最後の日となるのだった—。
▼映画『影裏』予告編ロングバージョン▼
作品解説
『影裏』は、第157回芥川賞も受賞した作家・沼田真佑による短編小説。それを原作として映画『影裏』が2020年に公開。監督は大友啓史、主演は綾野剛。撮影は全編にわたり原作の舞台である盛岡で行われた。主人公である会社員の男性が突然辞めてしまった同僚の足跡を辿りながら、同僚の裏の顔を知っていくミステリー作品。
誰もが持っている光と影
タイトルの『影裏』とは作中の日浅のセリフ「人を見る時はな、その裏側、影の一番濃い所を見るんだよ」から来ているものだと思われます。そのため映画ではこの影を表現するために、かなり印象的に「光と影」が表現されています。物語冒頭は暗い中の間接照明、真夜中の車のヘッドライト、真っ暗闇の焚火、その時光は何を照らして、何に影を落としこんでいるかがとても印象的で、その結果、画面には光と闇のコントラストがくっきり生まれて、作品全体が人間に内在する「光と闇」を描いているのだという伝わってきます。
「日浅とは何者なのか」今まで日浅の光の当たった部分しか知らなかった今野は、異常なまでの不安に苛まれます。決して今野は光の部分しか見ないお人好しな性格というわけではなく、今野自身が慣れない土地と人間関係のために心のよりどころを求めてたのだと思います。
人間誰しも「光と影」があるなんて当たり前なのだけど、盲目的だった今野はいざ、日浅が生きてるか死んでるかも分からない、何者かもわからない、今まで接してきた日浅はニセモノかもしれない…どんどん自分が知っているはずの「日浦の人間像」が崩れていく様は、視覚的にも恐怖と不安定さを感じさせました。
映画『影裏』より
今野の光の感情※ネタバレ
ネタバレ注意それまで伏線めいたものはほとんどなかったのですが、物語中盤で今野がゲイであると分かります。それまでを振り返ってみれば、物語の回想シーンでかなり性的に描写された今野の下着姿、日浅が今野に吸いかけのタバコを渡す(間接キスの誘導)、ザクロを食べあうシーンなど、直接表現されたわけではないけれど、ゲイだと分かる人に分かる表現がされています。
それが明確に分かるシーンは、今野が日浅に勢い余ってキスをするシーン。その後、旧友と思わせた副島との会話で、昔恋愛関係にあったことが示唆されます。
そのことから、今野は日浅に単純な友情よりも複雑で粘着的な恋愛感情を抱いていたことも考えられ、愛する人がいきなり消えたり、正体不明だったりと物語後半の今野の「正体不明でも嘘で塗り固められた人であっても、愛する人がせめて生きていて欲しい」複雑な感情を理解することができます。
映画『影裏』より
まとめ
登場人物の心理状況や感情、光と影など、言葉や演技そのものよりも、映像表現で表現されているため、まさに「行間を読む」を映像で表現した作品だと言えます。ただ個人的には今野と旧友・副島とのやりとり…というより副島という直接的過ぎるキャラクターは必要だったのかな?と思わなくはない。ただあのシーンのおかげと言うか、それ以前の描写も合わせて、今野の想いは影の部分ではなく、光の部分だったのだと感じれた要素でもありました。
物語は正体不明の友人である日浅の影についてメインで描いていましたが、全体を通してみると、今野の光の部分を描いた作品だとも感じました。
映画『影裏』より
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