ジョン・カリー


あらすじ

バレエのメソッドを取り入れた演技を導入し、フィギュアスケート界に革命をもたらしたと云われる、イギリスの男子フィギュアスケート選手のジョン・カリー。彼のパフォーマンスは、瞬く間に世界を魅了。

1976年のオーストリア・インスブルック冬季五輪では、フィギュアスケート男子シングルで金メダルを獲得し、「氷上の王」の称号を欲しいままとします。しかし当時のマスコミは、そうした偉業よりも、彼のセクシャリティに関しての報道に終始。

本作は、そうした好奇の目に晒され、なおかつ病魔に侵されながらも、一人のアスリートとしてアイススケートに情熱を注いだカリーの姿を、貴重なアーカイブ映像や関係者へのインタビューなどを通して明かしていきます。

▼映画『氷上の王、ジョン・カリー』予告編▼


作品解説

『氷上の王、ジョン・カリー』は2018年に公開されたイギリスのドキュメンタリー映画で、バレエのメソッドをアイススケートに取り入れたジョン・カリーの半生を貴重なアーカイブ映像や関係者へのインタビューを通してまとめた作品です。

本作はクロード・ドビュッシーの『「牧神の午後」への前奏曲』や、ニコライ・リムスキー=コルサコフの『シェヘラザード』といった、カリーによる演目が使用されていて、ソロや男女混合、カルテットといった様々な種目で披露するジョン・カリーのパフォーマンスに圧倒されます。

力強く、美しく、幻想的で繊細に舞うその姿は、今日のフィギュアスケートに通じるものがあるし、フィギュアスケートをよく知らないという人でも、その圧巻のパフォーマンスに息を飲むに違いないと思います。

中には1984年、日本の国立代々木競技場体育館で開催されたアイスショーの映像もあり、貴重なパフォーマンスを観ることもできます。

ジョン・カリー01
映画『氷上の王、ジョン・カリー』より

氷上の王ジョン・カリーとは

1949年9月9日、イギリス・バーミンガムに生まれたカリーは、7歳からアイススケートを習い始めます。その才能は瞬く間に開花し、1971年、及び1973年から76年まで全英チャンピオンに輝いたのを皮切りに、その後も数々の選手権で優秀な成績を収めます。

さらには、1976年のインスブルックで行われた冬季五輪で金メダルを獲得。

バレエのメソッドを取り入れた演技でフィギュアスケートを「スポーツ」から「芸術」へと昇華させ、そのエレガントなスタイルから「スケート界のヌレエフ」と評されました。

インスブルック五輪優勝直後、自らのセクシュアリティに関するオフレコの談話がセンセーショナルに報道され、予期せぬアウティングに曝されることとなりました。世界選手権のあとにプロに転向し、自身のツアーカンパニーを設立し、主役を務めながら振付・衣装デザイン・芸術監督も兼任。

しかし、1987年にHIVと診断され、1991年にエイズを発症したことで同年に引退。1994年4月15日、エイズによる心臓発作により44歳という若さで亡くなっています。

▼映画『氷上の王、ジョン・カリー』特別映像▼


ジョン・カリーのセクシュアリティ

ジョン・カリーは幼い頃より、バレエや舞台が好きだったが、厳格な父親はそれを許さず、バレエを習いたいと言ったジョンの要望も拒否。しかしフィギュアスケートは習うことを許された、理由は「スポーツだから」と言うもの。

その後ジョンはフィギュアスケートにバレエの要素を盛り込み才能を発揮、次々と賞を取るものの、成長するにしたがって「男らしく踊る」ことを強要されるようになります。しかしジョンは自分のスタイルを変えず滑り続け、オリンピックの舞台で金メダルを取ることになります。

しかし、マスコミの興味はジョンのスケーティングスタイルではなく、金メダリストがゲイかどうかに関心を持ち、終いにはゲイであるとアウティングされてしまった。

結果論ですが、同性愛が公的にも差別されていた時代に、ゲイであることを公表した初めてのメダリストとして、カリーの存在は社会的にも政治的にも論争を巻き起こすことに。

ジョン・カリーの華々しいスケーティングスタイルの裏には性表現だったり、セクシュアリティといったよりプライベートな部分が映し出されます。当時はかなり同性愛に対しての偏見も強く、そういった部分で悩めるジョン・カリーの様子も映像に収められています。

ジョン・カリー02
映画『氷上の王、ジョン・カリー』より

フィギュアスケート界への影響

ジョン・カリーという選手がいなければ、男子フィギュアスケートは今あるような芸術性や音楽の解釈などアーティスティックと言われる方面には発展していなかったかもしれない。

本作でも日本でも人気のスケーターのジョニー・ウィアーのインタビューが流れます。彼もまた、ジョン・カリーと同じくゲイであることを公表したスケーター。

セクシュアリティを公表できるほどスポーツ界の差別意識は改善したともとらえられますが、現状「男性なのに男性らしい演技をしてない」といった理由で、不本意なジャッジを受けたりしているのも現実。

しかし、そうした状況にも屈することなく、自分のスケーティングスタイルを追求するジョニー・ウィアーの「カリーが今の僕を創った」という言葉からも、ジョン・カリーがフィギュアスケート界にもたらした功績の大きさを知ることができます。

ジョン・カリー03
映画『氷上の王、ジョン・カリー』より

【関連記事】
【愛の歌を作り続けたコール・ポーターの半生】五線譜のラブレター【LGBTQ 映画】
【おれの墓で踊れ】summer of 85【LGBTQ 映画】
【偏見と闘い続けた】ロバート・イーズ【LGBTQドキュメンタリー映画】
【女王の悲しみと孤独】女王陛下のお気に入り【LGBTQ映画】
【HIVウイルスと向き合う】10デイズ 愛おしき日々【LGBTQ映画】