さよならぼくのモンスター


あらすじ

父子家庭で育ったゲイの青年オスカーは、幼い頃に殺人事件を目撃しており、高校生になった現在もそのトラウマに悩まされていた。

特殊メイクアーティストを夢みる彼はニューヨークの学校への進学を目指す一方で、バイト先の同僚ワイルダーに惹かれていく。

▼映画『さよなら、ぼくのモンスター』予告編▼



作品解説

『さよなら、ぼくのモンスター(Closet Monster)』は2015年のカナダ映画で、脚本・監督を務めたのは本作は長編映画監督デビュー作となったステファン・ダン監督。

この映画は、ゲイであることを公表しているダン監督の10代の頃の経験を基に作られており、カナダのセント・ジョンズで起こった一連のゲイに対する憎悪犯罪(ヘイトクライム)が、彼自身の同性愛嫌悪(ホモフォビア)に強い影響を与えたと語っています。

そしてそのゲイに対する憎悪犯罪が起こった…またダン監督自身の生まれ育ったセント・ジョンズで主に撮影され、思春期の青年の心の葛藤を卓越した映像センスで描き、長編監督デビュー作にしてトロント国際映画祭で最優秀カナダ長編映画部門を受賞しました。

テレビドラマ「フォーリング・スカイズ」のコナー・ジェサップが主演のゲイの青年オスカー役を務め、オスカーの心の友だちのハムスター役に「ブルーベルベット」のイザベラ・ロッセリーニが声の出演。

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映画『さよなら、ぼくのモンスター』より

ゲイだけどゲイ嫌悪のオスカー

ゲイであるオスカーは過去のトラウマからゲイに対する嫌悪を感じています。それはひとりの青年がリンチにあい殺される瞬間を見てしまい、しかもリンチにあった原因が「ゲイ」だったから。

これ以降、オスカーは自身の同性愛指向を押し殺し、ゲイに対し嫌悪をいだくようになります。

オスカーのように、自身がゲイでありながら、周囲のゲイに対する風当たりの強さを感じて「ゲイ嫌悪」になり自身がゲイであると気づかない、自身がゲイであることを否定すると言う人は割と多いです。

オスカーの場合、いろいろな経験を経て自身がゲイであることを認め、それまで父だったり母だったり、ハムスターありきの生活だったのを、いちから自分で生活し自己肯定感を高めていくことになると思います。

もともとゲイ嫌悪でゲイだと否定してきた人が、そう簡単には認められるようになったりするわけではなく、新しい信頼関係を築いたり、恋愛をしたり、周りから肯定されるようになって、ようやく…といったことも多いので、オスカーはまだ自己肯定の第一歩を踏み出したのかなという印象です。

さよならぼくのモンスター01
映画『さよなら、ぼくのモンスター』より

「モンスター」とは?

タイトルにもある「モンスター」とは何のことなのか。これについて私なりの考察。

原題が『Closet Monster』であることと作中の表現から、おそらくモンスターは「父親」のことだと思われます。オスカーの父親は一見、愛情深くオスカーにも優しい父親ですが、酒癖が悪く、それが原因で母は出ていきます。

さらにはゲイ嫌悪でもあるようで、別れた妻の新しい恋人を「オカマ野郎」と罵ったり、ゲイに対するヘイトクライムが起こってからは、オスカーに対し「男らしくしないとお前も殺されるぞ」と言ってしまいます。

終盤ではそれまでオスカーのセクシュアリティを否定し続けて父親を、オスカー自身の手でクローゼットに押し込み、自身のトラウマと向き合って父親というモンスターと決別をすることで、ようやく自分を肯定的に考えられるようになるという物語なのかなと。

ラストのハムスターのバフィーの言葉から、父親は酒癖は悪いし、セクシュアリティは否定するしな毒親だったけれど、ちゃんとオスカーに対して愛情は持って接していたのだとも感じましたが、オスカーにとってはモンスターには変わりなかったのだと思います。

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映画『さよなら、ぼくのモンスター』より

まとめ

どうしてもLGBTQを題材にすると、LGBTQに対する嫌悪は周囲から向けられるものが多く、それに対していかに抗うか…みたいに描かれることがメインですが、本作ではそれはゲイの青年自身の中に潜ませ、それに抗う様子が描かれています。

こういったLGBTQ当事者がLGBTQに対して嫌悪感を持つ、自身がLGBTQだと認めきれない…というは割とあるあるなのに、それを描かれる作品と言うはとても珍しく、本作はそういった意味で貴重な作品だと思います。

ゲイだけどゲイ嫌悪なオスカーが、自身や周囲にどんな答えを出すか……どうしても父親や母親、ハムスターとのやりとりが目立ちますが、個人的にはオスカーが好きになった相手ワイルダーとのやりとりが印象的で、彼の存在がオスカーにセクシュアリティを自覚させるよい働きをしたと感じました。

オスカーがどうトラウマや父親に抗うか、イナジマリーフレンドであるハムスターやモンスターとはどうやって決別するのか、彼の行動にとても勇気づけられる作品です。

さよならぼくのモンスター04
映画『さよなら、ぼくのモンスター』より

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