ひらいて


あらすじ

一重瞼でオシャレな木村愛は、高校一年生のときに同級生の彼を好きになる。変わった彼の名前は、〝たとえ〟。

受験生になった愛は、一年越しで同じクラスになったたとえに恋人がいることを知る。いつしか執着に変わり、果てには愛の心の根底に流れる狂気と結びつく恋心は、行くあてもなく恋人の美雪に向かっていく。

〝狂気だけど、狂気じゃない〟三者のうねり暴れる情念と若さのエネルギーが、静かにひらいていく。

▼映画『ひらいて』特別映像▼


作品紹介

『ひらいて』は、『インストール』『蹴りたい背中』などの綿矢りさによる恋愛小説。2012年に刊行され、2021年には監督・脚本に首藤凜、主演に山田杏奈で映画化されました。

どこか謎めいた西村たとえに思いを寄せており、成績もよく明るい人気者の女子高生の木村愛を演じるのは山田杏奈。

そんな愛に想いを寄せられる、成績優秀だが物静かで目立たない男子高校生の西村たとえ役は作間龍斗。たとえと秘密の交際をしており、そのことがきっかけで愛と関係を持つ新藤美雪役に芋生悠。

想いを寄せる男子高生が別の女子高生と恋愛関係にあると知った女子高生の三角関係を描いています。

ひらいて01
映画『ひらいて』より

枠組みから抜け出す

恋する少女の暴走……と言ってしまえば簡単ですが、実際の愛の行動はそれはそれは理解しづらいもののはずなのに、どこか納得と理解をしてしまう…そんな行動。

確かに好きな男の子に彼女がいて、その彼女に近づき肉体的関係を持つなんて、なかなか理解しづらいものがありますが、そうなった経緯や彼女の心情を考えるとどこか納得してしまう。

愛は物語序盤では「クラスの中心人物」「成績優秀」「ダンスのセンター」「人気者」と真面目過ぎず不真面目すぎず、絵に描いたような「いい子」として描かれています。実際、周りの教師や友人からもそんな表面的な愛のいい子の部分を見て好きになって、評価している。

そんな状況を愛は良しと思っていなかったのかもしれません。

いい子でいる愛を「テストを白紙で出す」「授業中に突然抜け出す」「たとえにストーキングする」など「悪い子」にしたのは、恋愛であり、たとえと美雪の2人であった。というより愛にとってたとえと美雪の前ではいい子でいることができない状況だったのだと思います。

また「いい子」の枠組みに捕らわれていた愛同様に、父親からの抑圧に捕らわれたたとえや糖尿病故に周りから守られていることに捕らわれている美雪も、そんな枠組みから抜け出そうとする、高校生が主人公の恋愛物語にしては大きなスケールの作品だと感じました。

ひらいて03
映画『ひらいて』より

身を焦がすような恋

物語中盤、主人公の愛と愛の想い人たとえの彼女である美雪は肉体関係を持ちます。一見、なんて稚拙な行動かと思われますが、愛にとっては想い人のたとえを傷つかせたい行為であって、決して美雪を性的対象に見ていたからというわけではないのが、少女の暴走さを感じます。

告白して振られて、その腹いせに想い人の彼女と寝て、それでも未練がましく再度告白した際には「吐き気がする」と拒絶される。

この時たとえは愛の恋愛を「ゲーム感覚」と蔑みましたが、愛は一切そんなことなく、むしろ「この恋が実らなければ生きている意味がない」と思うくらい命がけの恋。

そんな様々な思惑がうごめく不思議な三角関係ですが、ラストではそれぞれどんな想いを抱いていたかは多分映画よりも原作の方がしっかり言語化されていて分かりやすいんじゃないかなと感じました。なので映画と合わせて原作もおすすめです。

ひらいて02
映画『ひらいて』より

タイトル「ひらいて」の意味

タイトルの『ひらいて』とは何のことか。

映画ではラストシーンで折り鶴を開くその行為がありますが、原作では美雪がたとえに「心をひらいて」と言うシーンがあります。これは美雪にしか心を開かなかったたとえに対して、愛にも心をひらいてあげてとお願いをするシーン。

それまでは愛を拒絶していたたとえにとってはとても勇気の要る行動だったかと思います。

また映画ではカットされていましたが、原作ラストシーンでは、愛が電車の中で「ひらいて」とつぶやくシーンがあります。これは勝手な解釈ですが、折り鶴を元の開いた状態に戻しても、折り跡は残っているし、元には戻らない。けれど、ひらくことで新しい変化にもなり得るというポジティブな意味合いなんじゃないかな?と思います。

愛は身も焦がすような…それこそこの恋が成就しなければ生きている意味すらないと感じてた恋愛を苦しくも苦く辛い経験しましたが、この恋は自分を大きく成長させたという思いを「ひらいて」に込めたのだと感じました。

ひらいて04
映画『ひらいて』より

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