おかえりアリス


あらすじ

内気で平凡な少年亀川洋平と、ルックスの良い室田慧、美少女の三谷結衣は幼稚園から一緒の幼馴染。

中学1年生のある時、性を意識し始めていた洋平は、慧と結衣がキスしているのを目撃して以降、関係は疎遠になっていく。そして夏休み明けに、慧は父親の仕事の都合で転校しまった。

時が経ち、地元の高校に進学した洋平は、同じ高校に入学した結衣と再び話すようになった、そこには女装して別人のようになっていた慧も入学しており、2年半ぶりの再会を果たすことになった。

「男を降りた」と言い放って美少女になった慧は、洋平に接近してきて困惑させる。

同時に、初恋であった慧の女装姿に戸惑う結衣は、その混乱の矛先として、洋平に対して恋愛感情を向けるようになる。

おかえりアリス04
漫画『おかえりアリス(著:押見修造)』より

感想

『おかえりアリス』は、押見修造による漫画で思春期の少年少女の性をテーマにした作品で、押見修造の毒々しさというか、人間の内側を描いた作風がいい味を出しています。

思春期の『性』に関しての「羨望」や「翻弄」「罪悪感」「嫌悪」などを描いていて、とにかくどろどろとした感情を抱いてしまう作品です。

ただそのどろどろとした感情は最終巻まで読むと、ただどろどろとしたものというわけではなく、そこからの「解放」や「肯定」にも繋がっているのだろうと想像できる内容にもなっています。

おかえりアリス03
漫画『おかえりアリス(著:押見修造)』より

男を降りた慧の目的は?

「男を降りた」と言って美少女になった慧は、あくまでも「男を降りた」だけであって「女性になった」わけではないのがとても面白いポイントで、自身がカテゴリー的には「男子」に分類されることも理解しているし、「女子」にもなれていないことを理解している。

ただそれ以上に「男でも女でもない」を十二分に活かしていて、幼なじみである洋平や結衣を翻弄していきます。

その翻弄具合がただ妖艶というわけではなく、汚くドロドロしたものを直視させられているような感情になって読んでるこちら側もHPを削られるような気分になります。

どうして慧は「男を降りた」のか?、どうして男を降りた慧は洋平と結衣の前に現われたのか……慧の目的と洋平と結衣の揺れ動く感情も一緒に考察しながら読むと、より深みにはまれるかもしれませんね。

おかえりアリス01
漫画『おかえりアリス(著:押見修造)』より

「男を降りる」とはどういうことなのか?

慧の「男を降りた」とはどう意味か、目的は何なのか……これが最終的に分かるのは最終巻までは分からないのですが、読んでる最中でなんとなく分かるのもミソで、まぁザックリ言ってしまえば「自身が男であることが嫌」という感情と「性的なものと向き合わなければならない」という感情と、その他諸々が複雑に絡み合った結果だと思います。

「女になった」「女になりたい」ではなく「男を降りた」という理由もなんとなくですが、分かります。

すっごく個人的な感想ですが「男を降りる」ってすごくいい表現だなって思います。私自身、性別違和を抱えていた時「男である自分が嫌、でも女になりたいのか分からない」と思っていた時期が結構長い時期あって、そんなときに「男を降りる」という選択肢があればなと思ったりもします。

選択肢があれば…なんて言ってるけど、多分あって、それを見つけられなかったんだろうなと思ったり。

作中の慧がどういう思いで「男を降りる」という表現をしたのか、どういう思いで決断したのかは、ハッキリ描かれているわけじゃないのですが、慧の選択はすごく勇気の要ったことだと思います。

おかえりアリス05
漫画『おかえりアリス(著:押見修造)』より

まとめ

「気弱な自己肯定感の低い主人公」「翻弄する人物」「性」これぞ押見修造作品と言われるような要素を詰め込んだ重たい作品です。

物語は言ってしまえば、すごく感覚的な表現で終わります。で?実際どうなったの?慧と洋平はどうなったの?と突き詰めることもできますが、そこまでしなくても大体「こうなんだろうなぁ」って読者が想像できるようになっています。

私自身は良い終わり方……というか、なんとなく綺麗な終着点だなと感じました。

性(性別であったり、性の汚い部分)を直視したくないのにしなきゃいけない、そんなキャラクターたちの思いを感じられる作品でした。

おかえりアリス06
漫画『おかえりアリス(著:押見修造)』より

【関連記事】
【価値観のアップデート】おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか! 【漫画】
【このまんがに無関係な女の子なんていない】さよならミニスカート【漫画/ジェンダー】
【めぐわこのイチャラブコメディ】ジェンダーレス男子に愛されています。【漫画】
【男女逆転バカップル?】イケメン女子と女装男子【異性装/漫画】
【女子高生×ラップバトル】キャッチャー・イン・ザ・ライム【漫画】