キル・ユア・ダーリン


あらすじ

第二次世界大戦中の1944年、コロンビア大学に入学したアレン・ギンズバーグは、文学の授業内容をはじめ、旧態依然とした大学の有り様に幻滅し、自由奔放な学生ルシアン・カーに強く惹かれるようになる。

そしてルシアンの仲間であるウィリアム・S・バロウズやジャック・ケルアックとも交流を持つようになると、彼らの生き方や「文学革命」の思想に感化されていく。

そのような中、アレンはルシアンに対して友情以上の感情を抱くようになると、ルシアンもそれに応え、2人はキスを交わす。

しかし、実はルシアンにはデヴィッド・カマラーという年上で同性の元恋人との間に切っても切れない「腐れ縁」があり、失意のアレンは行きずりの男と肉体関係を結んでしまう。

『キル・ユア・ダーリン』予告編



作品紹介

『キル・ユア・ダーリン(Kill Your Darlings)』は2013年のアメリカ合衆国の伝記映画で監督はジョン・クロキダス、出演は『ハリーポッターシリーズ』のダニエル・ラドクリフ。

ビート・ジェネレーションを代表する詩人アレン・ギンズバーグのコロンビア大学での学生時代を、彼の身近で起きた殺人事件「デヴィッド・カマラー事件」を背景に、ルシアン・カー、ウィリアム・S・バロウズ、ジャック・ケルアックらとの交流とともに描いた青春映画。

この映画は実際に起きた事件と実在する人物が登場しますが、史実をそのまま映像化したというわけではなく、ドラマティックに脚色されているようです。

そしてこの映画の主演アレン・ギンズバーグを演じたダニエル・ラドクリフはそれまでのハリーポッターのイメージを払拭するために果敢にいろんな役を体当たりで演じ、この作品でも詩的で同性愛者な役柄を見事に演じ切っています。

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映画『キル・ユア・ダーリン』

実際に起きた事件とアランの想い

この物語は1944年に起きた「デヴィッド・カマラー殺人事件」をもとにしているて、加害者の名前はルシアン・カー。

名門コロンビア大学で起こった殺人事件は多くの人々に衝撃を与え、そして若きビートジェネレーションの面々もそこに関わっていた。

この事件は、加害者であるルシアン・カーが被害者であるデヴィッド・カマラーに長年にわたってストーカーされていて、その末口論になり殺人事件に発展したというもので、事件についてはこの映画にも出てくるジャック・ケルアックとウィリアム・バロウズが『そしてカバたちはタンクで茹で死に(And The Hippos Were Boiled in Their Tanks)』にて書き記しているそうです。

映画冒頭では事件を起こし捕まってしまったルシアンと牢屋で対面するアレンのやり取りから始まり、ルシアンは事件の供述をアレンに書くように依頼します。

原題を生きる私たちにはピンと来ないかもしれませんが、当時では同性愛者に無理やり迫られて起こった殺人は名誉殺人ということで罪が軽くなるそうで、ルシアンはアレンに自分が有利になるようにお願いしたわけです。

キル・ユア・ダーリン02
映画『キル・ユア・ダーリン』

ただ厄介なのは、その名誉殺人が適用される場合はルシアンが異性愛者で被害者(デヴィッド)と身体の関係はなかった場合のみ有効らしく、実はルシアンは同性間で淫らな行為をした経験があり、しかもデヴィッドとも関係があったらしく、つまりはアレンに嘘を吐けとお願いしている。

アレンはアレンで、ルシアンに対して友愛と恋愛の両方の感情を思っており、突き放すことも難しいという。

迷いに迷ったアレンに、アレンの母親が言った一言でアレンは決断するのですが、その一言がまた重くて…そしてアレンを前に向けるさまがすごく感動しました。

キル・ユア・ダーリン04
映画『キル・ユア・ダーリン』

「ダーリン」とは何を指しているか?

タイトルの『キル・ユア・ダーリン(Kill Your Darlings)』、漠然と「ダーリンって誰のことだろう?」「原題ではダーリンは複数形なんだ」とか思っていたのですが、この作品の「ダーリン」とはアレンにとって「愛おしいもの」なのかな?と思いました。

アレンは物理的だったり精神的だったりにいろいろなものと決別するシーンがあります。例えば「父母」。最初は母との決別から物語は始まり、物語後半では大好きだった親友ルシアン、そしてそれまで学んできた大学、他にも教養と呼ばれる古典文学であったり。

実はそうしたあらゆる既成秩序を壊すことが、後にビートジェネレーションと呼ばれる人々が持った思想で、アレンたちはその第一人者となるそうです。

Another lover hits the universe. The circle is broken. But with death comes rebirth.
And like all lovers and sad people, I am a poet.

愛する者は宇宙へ旅立った。輪は破壊された。そして死は復活する。
全ての苦しむ人と悲しむ人と同様、私は詩人である。
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映画『キル・ユア・ダーリン』

キラキラ青春×ドロドロ愛憎劇

映像そのものは雰囲気もよくおしゃれなのですが、内容はドロドロとした愛憎劇。

同性愛にストーカー(映画では腐れ縁なんて言ってたけどそんな可愛いもんじゃないと思う)、そして殺人事件、そんな波乱万丈な展開は多少脚色されているとはいえ事実というのが驚き。

あまりにも重く暗い雰囲気が鬱々とさせ、登場人物のやっていることはキラキラした青春っぽいのに、どこか不穏。

そんな雰囲気に飲まれて、初見だとアランの書く私的な内容が頭に入ってこないほど。それくらい、アランとルシアンのやり取りが濃く、見ごたえのある作品だと感じました。

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映画『キル・ユア・ダーリン』

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