カレとカノジョの選択


あらすじ

7年ぶりに再会した彼は彼女になっていた!

大人になったらお前に会いにいく――。その約束を胸に、7年ぶりに再会した彼は「彼女」になっていた!俊英・緒原博綺が描き育むのは友情か、それとも愛情か――!?

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漫画『カレとカノジョの選択(著:緒原博綺)』より

感想

『カレとカノジョの選択』は、緒原博綺による漫画で、『後天性雌雄転換病』によって強制的に男から女に性転換してしまった遥と、遥の親友の和真との性別に振り回されるお話です。

作品オリジナルの奇病で性転換してしまった人物を描いた作品はいくつかあって『個人差あり〼』では夫婦と夫側が奇病により性転換で女性になってしまい、夫婦の在り方や仕事の仕方が性別が変わったことで戸惑うストリートで、他にも『彼女になる日』では奇病で女性になった主人公と親友のラブロマンスが描かれています。

上記の作品との共通点として、作品オリジナルの奇病で強制的に性転換してしまったという点。しかし、上記の作品とは違って本作のメイン視点は当事者の遥ではなく、遥の親友・和真であること。

久しぶりに会った親友が男から女に性転換していて、和真は何を思うのか、男子同士だった時代のような付き合い方ができるのか…そういった葛藤が見られるお話です。

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漫画『カレとカノジョの選択(著:緒原博綺)』より

雌雄転換病と世界観

作品内の設定にはなりますが、『後天性雌雄転換病』という強制的に性転換してしまう奇病と言うものがあり、それ自体は広く認知され比較的好意的に受け取られていること……実際に親友の和真や、和真の友人自体は驚きはしたものの性転換した遥をひとりの人間として受け入れている。

また同性同士が付き合うことも差別されることはなく同性同士の結婚についても法制化されているという社会。

そんな感じで広く性転換してしてしまう病気が認知された世界観で、性転換してしまって女性になった遥と男時代を知っている和真…いくら本人たちが親友同士と言っても世間的に見たら男女であって、その2人はルームシェアしてるとなると浮かぶ言葉は「同棲」だったり「恋人」だったりしてしまう。

そんな周りの目と実情との違いに、戸惑ったり、躓いたり…そういった「差」というもの漫画から感じられます。

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漫画『カレとカノジョの選択(著:緒原博綺)』より

中身を見てくれる親友の存在

本作の謎の奇病『後天性雌雄転換病』は体は完全に性転換されられるけれど、こころはどうなのか…作中では「徐々に新しい性別に順応していく」というもので、つまりは性自認は変化するということ。

ただコレに遥は懐疑的で、自身の性転換した体は受け入れているものの。心まで変化したとは考えきれず、それがまた遥を悩ませている一因となっている(性別違和があるわけではないっぽい)

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漫画『カレとカノジョの選択(著:緒原博綺)』より

そんな中、戸惑いつつも男子時代と変わらない付き合いをしてくれる和真に心を救われており、それがまた新たな波紋を生んだりする。

個人的に和真がとてもいい男すぎる!と思いました。

性別が変わった遥を戸惑いつつも受け入れ、表面的な遥ではなく、遥の内面を見て接してくれる…かと言って、全く男子時代の付き合い方ではなく、遠慮だったり気遣いだったりを不器用ながらもしてくれる優しさを持ち合わせていて、こんないい男の唯一欠点が優しすぎるという点…。

そんな遥と和真の不思議な関係の変化も本作の見どころです。

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漫画『カレとカノジョの選択(著:緒原博綺)』より

雌雄転換病と実情※ネタバレ注意

ここからネタバレ注意。



















基本的には和真の視点で物語が進むため、遥に性別が変わった以外にも不可解な点がいくつかあります。ひとつは「何故7年間、連絡を取り続けていた和真には性別が変わったことを伝えなかったのか」「何故遥は地元に帰りたがらなかったのか」

…特にバイト先の先輩である朝霧優が遥と同じ病で性転換した女性であり女性の恋人がいると知った時の反応は妙な違和感で、和真は「朝霧優が後天性雌雄転換症でじょせいになったこと」に驚き、遥は「朝霧優に女性の恋人がいること」に驚いたこと。

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漫画『カレとカノジョの選択(著:緒原博綺)』より

このシーン、後天性雌雄転換症が広く認知された病なら和真が驚くことも不思議だし(遥と言う身近に当事者がいるなら猶更)、同性同士の恋愛や結婚が当たり前の世界観なら同性同士で付き合っていることに驚く遥も不思議。

この妙な違和感、物語後半で遥の過去を知ることで明かされる形になります。

転換症で女性になった遥は地元で差別的な扱いを受け、さらには好きだった女性とも付き合えていたのに、心が男性だった故にその部分を見透かされて振られてしまう。端的に言ってしまうとささやかに感じてしまいますが、当事者ではひどく伸し掛かる事柄だったと思います。

それを知った後に読み直しと件のシーンは「雌雄転換症が認知されているからと言って差別がないわけではない」ことや「性転換した人が同性と付き合うことはまだまだ異質」だということが分かるシーンだったのかもしれません。

そしてタイトルにもある『カレとカノジョの選択』…という「選択」。遥と和真は何をどう選択するのか、ラストはかなり「納得」できる…性別に振り回されたキャラたちの選択にも注目です。

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漫画『カレとカノジョの選択(著:緒原博綺)』より